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ゴーストライター
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novelistID. 34120
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トラストストーリー

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「はぁ~、まぁ、引き継ぎと言っても今日一日で全部じゃなく、各所少しずつ行われるものだから将軍がいなくともそれほどの遅れは出ないから大丈夫だと思うが・・・。なるほど、遊撃部隊の全指揮権を預かるお前もやはり人の子という訳か」
くくくっと声を押し殺したように卑屈な笑い声を上げる。
「そりゃ、俺だって忘れることはありますよ」
「そうだな。まぁ、今度から気を付けるんだな」
「えぇ。分かってますよ」
微笑みながら返す遥斗に苦笑しつつ、つまみを口に運ぶ。その時、ちらりと遥斗の視界にこの店の店主らしき男が映り込む。店主の二人を見る顔が引きつっていた。
なにせ、酒瓶だけでも優に二十を超えており、それだけでなく、つまみが盛られていたはずの大皿が十数枚積み重ねられているのだ。
顔が引きつってしまうのも無理はない。
おそらく、本心ではもう止めてほしいのだろうが、なにせ、高天原だけでなく各周辺諸国にも名前が通っている有名な将軍二人だ。
止めたくとも止められないのだろう。
気付かなければそのまま時間ぎりぎりまで飲み続けようと考えていた遥斗だったが、気付いてしまった以上、このまま続けるのはさすがに気が引けた。
「こほん。・・・志穂さん。そろそろ・・・俺、出立の支度がありますので・・・」
「ん?あぁ、そうだったな。悪い、悪い。ならば、出るとしようか」
一体、どれほど蟒蛇なのか。あれほど大量の酒を飲んだはずなのにその足取りは思いのほかしっかりとしていた。
「店主。代金はすべて城に請求しておいてくれ」
「えぇ!?志穂さんが払うんじゃないんですか!?」
今まですっかり志穂が払うと思い込んでいた遥斗は驚愕する。なにせ、量が量だ。かなりの額になっているだろう。その代金を自分の仕えている主に請求し、払わせるとはさすがに遥斗も考えていなかったようだ。
「当たり前だろう。私にこれほどの額の金があるはずがない」
「胸を張って答えることじゃないですよ・・・」
「だったら遥斗。お前が払ってやるか?」
「いや、それは・・・」
自分たちの飲み合った惨状へと目を向ける。一見しただけでそれは今、自分の手持ちで払える額ではないということが分かった。
「・・・城宛てで請求しといてください」
「うむ。素直でよろしい。ということだ、店主。代金は城で貰ってくれ」
「は、はい」
苦虫を噛み潰したような、何とも言えない表情をした店主に一言詫びを入れてから遥斗は先に店を出ている志穂の後を追う。
店の外はもう随分と暗くなっており、周囲には祭り用に飾られた提灯が色鮮やかに光り輝き、夜の町と城を幻想的に照らす。
通り道には国内・国外など、戦争を問わず行き来する商売人たちが屋台を開き、人でごった返していた。
「おぉ、遥斗。どうやら随分と飲んでいたようだな」
「・・・見たいですね。じゃぁ、俺はこれで」
「・・・そうじゃな。・・・帰って来いよ、遥斗」
「・・・えぇ」
優しく微笑んだ志穂に頼りなさ気な表情で言葉を返した遥斗は予想外に時間が経っていたことに焦りつつ、人でごった返している中を時に走り、時に早足で城へ向かう。
城へ向かう途中、何度も人とぶつかったがそんなことを気にしている余裕はない。これ以上、遅くなれば最悪、間に合わない可能性も出てきてしまう。
それだけはなんとしてでも避けなければならないことだった。
「くそ・・・予想外に時間食っちまったな・・・」
人の少ない裏路地を通りながら少しでも早く城へ向かう。
(異能を使えば簡単に城まで行けるのに・・・)
だが、異能を使うことは瑛里華から禁止されている。それは遥斗に関わらず、志穂も桜花も柚希もだ。異能や魔術は確かに生活にも使える便利で万能な力だ。だが、その二つの力のほとんどが戦闘に利用されていることもあって、異能や魔術を使えない人たちからすれば畏怖の対象なのである。そういった国民に余計な苦労や心配を掛けないように、と配慮しているため、この国では有事の際、以外は使用禁止となっているのだ。
「ったく・・・国民のことだけじゃなくて、俺たちのことも考えてほしいぜ」
遥斗が愚痴をこぼす。そんな時だった。ひときわ大きい歓声が遥斗のいる一本向こう側の大通りから聞こえて来た。
あまりの大きさに思わず耳をふさぎたくなるほどだ。
遥斗の視線は自然と建物と建物の間から見えるわずかな隙間へと向く。
その隙間からは矢倉の上で綺麗に彩られ煌びやかなドレスを着ている椎名が笑顔で国民に手を振っている姿を見ることが出来た。それはある意味、偶然であり、奇跡だった。
矢倉は動く。大通りを中心に町をぐるりと二週する通路をとることになっているのだが、それをこんな形で見ることが出来たのはある意味、奇跡なのだろうか。
遥斗は闇夜に輝く矢倉の上で笑顔を振りまく椎名のその美しさに見惚れて、足が止まってしまう。
――――時間が止まればいいのに。
遥斗がそう感じてしまうほど、椎名は美しかったのだ。いつもお転婆、じゃじゃ馬という単語が頭に付くお姫様の椎名が、である。
「ふ・・・ふはははは」
歓声にかき消されて誰にも聞かれない路地裏で遥斗は一人、高らかに笑う。
「なるほど・・・いつまでも、子どもじゃない・・・か」
以前、遥斗が椎名の勉強に付き合っていた時に椎名が言った言葉だ。その言葉こそ当時は笑い飛ばし、椎名の頭を軽く撫でただけの遥斗だったが、確かに、今、椎名の言った言葉を噛み締めていた。
「確かに・・・立派になられましたよ・・・椎名様」
遥斗は椎名の晴れ姿を見て満足に気に呟くと再び城へと駆けだすのだった。