クロエのチョコレイト
クロエのチョコレイト
そして無事、15分の逃走劇は幕を閉じた。
騒ぎを起こした張本人である及川カレンが、
その愛くるしい容姿と、
理事長の孫というポジションを遺憾なく発揮し、
事態の沈静化及び隠蔽工作に励んだため、何事もなかったかのように収まった。
ようかに見えたが、収まっていない問題が一つ。
「瞳子さん、さっきからどうしたんデスか? ボーッとして」
まるではるか数千光年先のイスカンダル惑星と交信しているような状態の黒江に、カレンは尋ねる。
が、反応はなし。
「そ、そういえば、瞳子さんは結局だれにチョコレイトをあげるんデスか? 私それが気になって気になって。まさか私トカ!」
無表情のまま首を横に振る黒江をみて、カレンは滝のような涙を流しながらその場を跡にした。
静かになった教室で、黒江はバッグの中からチョコレイトを取り出す。
昨日気合を入れて作った手作りチョコレイト。
キャラじゃないと思いつつ、作ってしまったチョコレイト。
ラッピングのリボンに挟まれているカードには、
結局病院送りとなった、
あの間抜けな、
だけれど男気のある風紀委員長の名前が書かれていた。
(まさか、告白する前に告白されるとは思ってもいなかった)
先生から教えてもらった病院の連絡先をもち、黒江は教室を後にした。
作品名:クロエのチョコレイト 作家名:伊織千景