充溢 第一部 第二十一話
満腹の所に、何か美味しい物を出されたとき、意固地になってそれが不味いものだと言い張るよりも、なんとかして別腹を作るなり、それを見越して満腹しないようにしていれば、それだけ、世界を多く味わえるではないか。
「満足の方が余程絶望的かも知れませんよ。そこから先に進もうとしないのですから――そう考えなくて済む人には、便利だし、世の中の多くの幸福はそこにあるのでしょうけど」
「君の言う"その先"を考えて行くにしては、人生は随分と限定されていないかな?
例えば、肉体的な限界とか」
男は、突然不思議なことを言い出した。
「人間の体は、先に進むにはもちが悪い……」
作品名:充溢 第一部 第二十一話 作家名: