充溢 第一部 第二十話
第20話・7/9
「狼狽えるな!」
頭の切り替えは、迅速で、自分でも誇らしいほどだ。頭はすっかり、説教を下すポーシャを模写していた。
この一撃は効いたようだ。しゃんとして、向きあう。
「シザーリオは私の兄で、私はその妹。いいな」
一喝されたフェルディナンドは、姿勢こそ正しくあるも、しどろもどろでいた。
良くないだろと呟くので、『良くなくない!』と激した。
脇に退いたとは言え、人の目の多い広場である事には変わらない。
立派な立ち姿の初老の男が、小娘に叱責されるとはどう言う事だろうか。男が、若い小娘に性的な嫌がらせでも働いたのだろうと、街角を行く人々の目には映る。
周囲の目線が集中する。励起状態は長く続かず、恥ずかしくて堪らなくなる。
フェルディナンドは、刺さる視線に神経が刺激されたのか、意気は落ち着いていった。
「悪かった。私の負けだ――それで何を……」
「ポーシャと一緒に見学でもしましょう」
こちらの笑顔に答え、男は向き直し、ポーシャを探し始めた。頭の周囲に沢山の疑問符を転がしながら。
作品名:充溢 第一部 第二十話 作家名: