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ゴーストライター
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百戦錬磨 第二話

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「・・・ったく・・・疲れた」
和斗はブレザーのボタンをすべてはずし、ネクタイも緩め、完全にだらけきった姿でリビングの冷房のスイッチを入れる。季節は春なのに気温はすでに三十度を超えているという異常気象なのだ。この気候は全国的であり、局所的に起こっているわけではなく、電力不足も騒がれたりもしている。
スイッチの入った冷房は古めかしい音を響かせながらゆっくりと動き始めた。和斗はテレビの前にある机に荷物を置いてテレビの正面に設置されているソファへ腰かける。
だが、ソファに腰かけようとした瞬間にあることに気が付く。
机の上に置手紙があったのだ。
そこには簡単に“すまない。用事が出来た。今日は帰らない”とだけ書かれていた。
(・・・まぁ、いつものことか)
和斗はそうして手紙を丸めてゴミ箱へ放る。だが、そのゴミはゴミ箱へは入らず、おしくもそれてフローリングへ落ちる。
「・・・はぁ・・・」
ため息ついて和斗は自分の放り投げたゴミを拾ってゴミ箱へ歩いて入れる。そして、手紙のことを考えていて和斗はもう一つ気付く。
(あっ・・・今日はまだ郵便受け見てなかったな)
別段、誰かと文通しているわけでもなく、新聞を取っているわけでもないのだがそれでも、毎日、郵便受けを覗いていると習慣になってしまい、逆に郵便受けを覗かなければ落ち着かなくなってしまうのだ。
「・・・仕方ない・・・」
腰かけようとしていた和斗はソファに腰かけることなく、そのまま玄関付近に設置されている郵便受けを見に行く。
郵便受けの中にはいつも通りの商店街からのチラシが数枚入っているだけだった。
(まぁ、そりゃそうだよな・・・ん?)
和斗の持っているチラシの中から一枚のピンク色の封筒がこぼれ地面に落ちる。
(なんだ?)
身に覚えのない封筒。身に覚えのない色彩。和斗の知り合いでこんな色を使用する封筒を使う人間と言えば夏樹か水月ぐらいだが、あの二人と文通しているということはない。
和斗はその封筒を持ち上げ中を透かしたり、振ったり、触ったりなどして危険性がないことを調べる。
危険性がないことを確かめてから和斗はその封筒を持って取り敢えず家の中へ入っていく。しっかりと扉に鍵を掛け、チェーンロックをする。
「・・・・」
真剣な目つきで封筒を眺めながら和斗はテレビの前にある小さな机ではなく、部屋の中央に備え付けられているもう一つの大きな机の上にチラシとそして、問題のピンク色の封筒を置く。
和斗は慎重にゆっくりと封筒の封を開けていく。封筒の中には一通の便箋が入っていた。便箋を取りだし、その三つ折りにされた便箋を開く。
「・・・・っ」
便箋の中身を確認した和斗の顔が強張る。瞬間、和斗から普段は見せない身が竦んでしまうほどの殺気と威圧感が放たれる。だが、それもまさに一瞬だけ。すぐに殺気と威圧感は身を潜めた。だが、一瞬だけ垣間見せた、和斗の本性だったのかもしれない。
「・・・悪戯・・・か」
和斗はそういって便箋を丸めてゴミ箱へ向かって投げ捨てる。便箋はおしくもゴミ箱へは入らず、フローリングの床に転がるが、和斗はそれをわざわざ拾って捨てる気にはならなかった。
「・・・悪質な悪戯だな」
和斗は気持ちを落ち着けるためコーヒーを飲もうと台所へ向かう。だが、その時、なぜか和斗の足がピタリと止まった。
そして、和斗はゆっくりと振り返る。やはりそこに何か変わったことはない。唯一あるとすれば、先ほど和斗が放り投げた便箋がゴミ箱へ入っていないことぐらいだろうか。それ以外はほとんど和斗が返ってきた時と何ら変わりない。
それでも、和斗は動かない。和斗の視線は先ほどの便箋にくぎ付けになっている。
数十秒。和斗はただ便箋を眺めていた。
(・・・バカか俺は?何をやってるんだ?)
和斗は頭を振って視線を外す。
「・・・ただの便箋だろうが、何を気にしてるんだ」
そのまま和斗は何事もなかったかのように再び台所へ向かう。夕方の日差しが窓から入ってきて部屋はまるで血に染まったように赤くなっていった。
運命はゆっくりと、あるいは、急速に動き始めていた。