百戦錬磨 第二話
この学園には校舎がいくつもあるように講堂もまた同じようにいくつもある。
一番大きい講堂を“講堂A”つまり“講堂”と呼び、ほとんどの場合ここが使われる。そして他には“予備講堂”補佐講堂“など全部で四つも講堂がある。
和斗たちはほとんどの場合で使われる一番大きい講堂へと出向いていた。講堂内部は普通の高校の講堂とほとんど変わりないが大きさが尋常ではない、というところが普通とは違うところだろうか。
そして、そんな巨大な講堂内部で作業をしてない連中がいた。
「・・・・んで、結局、こうなるわけだ」
孝明はうんざりしながら舞台裏からパイプ椅子を大量に運び出しながら現状に対して文句を漏らす。
それもそのはず。手伝いに来たはずの和斗と潤。最初こそしっかりと作業していたのだが、徐々に講堂を手伝っていた女子生徒たちが潤の周りに集まり始め今では潤の周りで座談会が行われているような格好になっている。
「ったく・・・ちょっとかっこいいからってちやほやされやがって」
「「「まったくだ」」」
孝明の言葉に頷くのは講堂で同じように作業していた男子生徒たちだ。講堂のほとんどの女子が潤の周りに集まっている中、こちらはこちらで男ばかりが集まって暑苦しい状況になっている。
しかし、何気に真面目なのか和斗はそんなことを一切気にせず、講堂内での作業を続けていた。
「おいおい、和斗。お前は羨ましくないのか?」
潤のことを全く気にせずに講堂内で作業する和斗に孝明が話しかけてくる。だが、潤の周囲に女子生徒たちが集まってくるのはいつものこと。
すでに潤はそういうもの、として理解している和斗からすれば潤の周囲に女子が集まろうが、集まらなかろうがどっちでもいいのだ。
「特には・・・。それよりも、孝明。お前こそ、サボらずにさっさと作業終らせろ」
「ほう、さすがは美人の幼馴染がいる男は言うことが違うね~。ヤっちゃったのか、もう?」
孝明のその言葉に潤に嫉妬の目を向けていた男子生徒たちが一斉に和斗へ視線を移し、叫ぶ。
「俺たちのアイドルが!?」
「学園の清純派アイドルの一角が・・・」
「うぉぉぉぉ、夏樹さーーーーーん!」
「龍雅に・・龍雅なんかに汚されてしまったのか・・・」
「嘘だと言ってくれ龍雅!」
「・・・・あなたは純潔であってほしかった。・・・・もうだめだ・・・」
矢継ぎ早に質問を投げかける者や孝明の言った言葉をすべて鵜呑みにして現状を嘆く者、あるいは、その場に崩れ落ちる者と様々だった。
「おい、本当か龍雅!本当なのか!?」
もはや男たちの悲鳴に近い言葉が和斗へ押し寄せる。それほどまでに和斗の幼馴染、東雲夏樹は人気があるのか、と言えばその通りである。
明るく、元気で誰にでも等しく接し、さらにはその容姿。このダブルパンチで落ちないものいないとまで称され、実際にその性格と容姿に多くの男たちが虜になっている。
また、それとは逆のタイプでは結菜に人気がある。
常に冷静で礼儀正しく、凛々しいだけでなく、戦闘学課でAクラス。そして学年主席に生徒会長ときており、容姿もまた、夏樹に負けず劣らずとくれば人気が出ない筈がない。これほどまでにすべてが揃っている人物というのもそういないだろう。
「あ・・・アイドル?」
いつも幼馴染としてしか夏樹を見ていない和斗からすれば、夏樹をアイドルとして見ることに抵抗がある、というよりも、そのように見ることが出来ないので、男子生徒たちの感情が理解できなかった。
「まったく・・・これだから、幼馴染は・・・」
「そうは言うが、孝明。お前だって俺と夏樹の幼馴染じゃないか」
「・・・あぁ。確かにそうだ・・・だが・・・俺は夏樹ちゃんに毎朝起こしてもらったことはないっ!」
確かに和斗と夏樹、水月、孝明に後もう一人を加えた五人は小学一年生の頃からの幼馴染である。立場としては孝明と和斗は同じであるにも関わらず孝明のところに夏樹は起こしに行かない。
「へぇー・・・・可愛そうに」
憐れむような目で和斗は孝明を見る。
「どうして・・どうしてなんだああぁぁぁぁ」
孝明の悲しみが最上ランクに達したのか孝明は地面を叩きながら打ちひしがれていた。その姿が見るに堪えなくなった和斗は仕方なく放置することに。普通は慰めの言葉ぐらいを掛けてやる場面だと思うが、和斗は言葉を掛ければ掛けたで面倒なことになる、と思ったのだろう。
「さぁて、馬鹿なことやってないで作業、作業っと・・・ん?」
そんな時に和斗の視界に入ってきたのは水月だった。
ほとんどの生徒が明日の準備に勤しんでいるというに荷物も何も持たず堂々と講堂に入ってくる水月。
誰かを探しているのか講堂内をきょきょろと見まわしている。時折、教師陣も見回りに来るというのに度胸がいいというか、単純思考というか。
(・・・まぁ、両方だろうな)
「あ、いたいた。和斗~。今、暇?」
どうやらお探しの相手は和斗だったらしく、和斗の姿を見つけた水月は子供のように無邪気な笑みを浮かべて和斗に駆け寄ってくる。
「お前は一体、どこをどうみれば暇そうに見えるんだ?明らかに忙しそうにしているだろ」
和斗その言葉を主張するように手に持っていたパイプ椅子を持ち上げてみせる。
「ほー、なるほど・・・暇そうだね」
「・・・水月君、水月君。君は日本語が通じないのかね?それとも目が腐ってるのかね?」
「通じてるし、目だってちゃんと見えているよ」
「なるほど。ということどうやら問題は頭か」
「もっと違うよ!頭だって大丈夫にきまってるじゃん!」
「んじゃ、どこが悪いんだよ」
「どこも悪くないよ!ってこんなことをしに来たんじゃないって!」
「・・・・はぁ~」
和斗はこれみよがしに脱力して、ため息をつく。だが、そんなことを気にしない大雑把な性格が水月なのだ。
「実はさ、今、密かに噂になっている篠原と利奈ちゃんの関係についての賭けがあるんだけど・・・もちろん、やるよね?」
そういって水月が取り出した紙には確かに賭けに関する今のオッズなどが詳しく書かれている。
賭ける内容は至極簡単で付き合っているという噂が本当か嘘なのかという単純な二択だった。
単純に確立だけなら二分の一である。
「篠原と利奈ちゃんか・・・」
篠原というのは戦闘学課二年生Gクラスの副担任であり戦闘学課の学年主任であるためかなり強い異能を持っており、尚且つ、体もかなり鍛えているので下手に逆らうと戦闘訓練時に集中砲火を食らってしまうことになる。
だが、その反面、生徒想いなところもあり、生徒が喜んでいるのなら自分がダシに使われることも構わないという優しい面もあり、そのため学園内でもそれなりに人気のある教師の一人でもあった。
「・・・これは・・・」
作業の手を止めて真剣に悩み始める和斗。他の生徒はどうにも“真実”という方へ流れているためオッズとしては“嘘”の方が大きい。
(が・・・俺も実際あの二人が仲良く話しながら廊下を歩いていたことは知っている・・・やはり“真実”か・・・いや、それとも・・・あの噂が本当なら・・・真実ということに・・・・)