作品集
電車の中で彼女は寝てしまった。僕の腕に身を預け、規則的に寝息を立てていた。時間が時間な為か、僕らの車両には誰もいなかった。
見事に切り離され、孤立した空間だった。誰も寄せ付けない僕らのように。
電車が揺れる度に、薫の髪から花の匂いが弾け、僕の鼻腔を駆け抜ける。彼女は髪以外も花の匂いのする女の子だった。洋服も鞄も毛布もベッドも枕も首筋も手の平も口内も、花の香りで満ちていた。そして僕はその匂いが大好きだった。
電車は目的地に着き、僕ら歩いて家まで向かう。
この小さな握り締めた手だけは、何があっても守るんだ。