充溢 第一部 第十九話
第19話・3/3
「結局、あの人も同じ種類の人だったのです。
以前仰ったでしょ? 自分には人間のことが分かっていると信じて、得意になっている人は、人生に悲観的な人を見つけると、否でも応でも自慢したがるものなんですよ。
相手にそれを論破されると、根拠もない攻撃をしたがる。そこで馬脚を現すんです。
自分は、見下す相手が欲しかったのだと」
ポーシャは寂しい顔で相手をしてくれた。
「お前のそういう所は嫌いじゃないぞ。なんせ私は悪い魔女だからな。
しかし、お前はそれでいいのか?」
愛撫するような声をなげかける。
構わない。いつか、ポーシャに窘められたときの気持ちと変わらない。研究は発見した者の為にあるのだから。
ポーシャの優しさは分かるが、露骨すぎる。だから、涙を見せられないのだ。見せてなるものか。でも、強がれば強がるほど、彼女には見透かされる。
「泣きたい時は一人で泣きます」
「強情な娘だな」
ポーシャはそっと、窓辺に立つ。
「復讐とか考えないで下さいね」
感情が落ち着いた頃だと思っていても、声はぼろぼろだ。
「お前の嫌がる事はやらんよ――誓ってもな」
魔女が何に誓うのだろう。
「たまには神様にでも祈ってやるか」
しんみりとお茶を味わう。雨の匂いが、戸口の隙間より這入る。
「酷い雨だな。今日は泊まっていこう。
ネリッサも今日は、屋敷に戻るだろう――そうさせるよ」
慰められたお礼に、明るい顔をしなくては。
「魔女は、天気も操作できるのですね」
「珍しい事を口にしたから、へそを曲げたんだよ」
戸や窓を叩く音が、精神を激しく洗い晒す。冷たく引き締める。
二人は、芯まで冷えないように、その色を失わないように守り合う。世界を洗い流す雨にも立ち向かうように。
作品名:充溢 第一部 第十九話 作家名: