めいく どらま
夏草や兵どもが夢の跡
「国破れて山河あり…か、う~む」
芭蕉が何かをひねり出そうとしている。
曾良が見守る中、ププッと音がして、嫌な匂いが漂った。
「師匠っ!」曾良が数歩飛び退く。
運悪く初夏の風がその後を追う。
さらに後ろに下がろうとして、曾良は草に足をとられ仰向けに転んだ。
「ふふふっ 何をしとるんじゃ」
芭蕉は曾良に呆れたような視線を向けた。
そして、その視線は曾良の後方を見ている。
何やら興味深いものをみつけたようだ。
曾良は師匠が倒れた自分に向かってきたのを、手を貸して起こしてくれるのかと思ったが、芭蕉は曾良の横を通り抜け、「ほほう」と感心している。
起き上がった曾良は師匠の関心のもとを見た。そこには何もない。
ただ、夏草の一部が何かに押しつぶされたように倒れていただけだった。
「師匠?」
怪訝そうに曾良は師匠を見る。
「曾良や、わしも昔は草の蓐の上で……」
曾良が、やっと意味が分かった頃、芭蕉は一句書きとめた。
――夏草や兵どもが夢の跡――
了