めいく どらま
ふる池や 蛙飛びこむ 水の音
私があの人をからかってみようという気があったのは確かです。相手はもう老人のようだったのですから。
最初は原っぱでおにごっこ。メルヘンですね。でも私が逃げるのをあの人が追いかけてくるだけでしたけどね。私はそれも飽きてきたので、わざと捕まってみたのです。
いくら娯楽の少ない時代とはいえ、いい老人がすることでしょうか。変態かなあ。まあ、芸術家らしいですから変なところもあるとは思いますよ。でもまさかストローをお尻の穴に突っ込まれて、息を吹き込まれるとはね。
私もさすがに抵抗をしましたよ。手足をバタバタさせて。あの人がずいぶんと顔を近づけていたので、私の足がちょうど口元にあたって、ひるんだ隙に逃げました。
まあ、私の方が足は速いですから、後ろを振り返りながら、またおにごっこですよ。
でも相手は変態老人ですから、妙にしつこいんですよ。私はストローをとる暇もなかったんです。やーね。ストローお尻に差したまま逃げるなんて。
私が逃げても逃げても追って来るんで、私がよく遊んでいる池に飛び込んだんです。
池の中で様子を伺うと、あの人がぶつぶつ言いながら紙に何やら書き始めました。
――ふる池や 蛙飛びこむ 水の音――
了