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充溢 第一部 第十四話

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第14話・4/4


 心配していた事は大きく影響も出ずに済んだ。
 学園からの依頼は途絶えたが、ポーシャやアントーニオの人脈が、手空きを埋めてくれた。お陰で生活が立ち行かなくなる程ではなかった。二人はその尽力にも関わらず、理由をひとたびとて聞く事はなかった。

 プリージの屋敷にはあれからも何度か立ち寄ったが、学園での人間関係について、あれこれ問われる事はなかったし、自分から話すのも面倒だった。そもそも、自分から話す事なんてなかった訳だし。
 迷惑を掛けた気持ちがない訳ではないが、変に取り入って、嫌な女だと思われるのも考えものだ。
 進捗を報告し、あれこれとアドバイスも貰えていたので、先生も向こうの言い分を鵜呑みになどしていまい――自分としては、誰も騒がなければ、自分が悪人になっていてもよいと決めていたので、プリージとの事務的なやりとりも、希望を励起させる事に繋がった。

 人間関係の不調の反面、茶葉の研究は煮詰まりつつあった。
 仕事が減った分、研究に費やせる時間が増えたし、墓参りを兼ねて訪れる度、ポーシャやアントーニオ達が葉っぱの摘み取りを手伝ってくれた。仕事を失った件も、きっとこの研究の為に仕組まれた"奇跡"の一つに違いない。

 残るは書き物だ。
 実験室はいつになく静かにある。念を入れて洗ったガラス器具は、初めての日の姿を取り戻し輝いている。
 論文を書くには最適な条件が整っていた。
作品名:充溢 第一部 第十四話 作家名: