2006-2010 詩集Ⅰ『あさ』
21.
浅く続いていた夢を途切れさせたのは
あまりにも短い一言だった
ぼんやりした言葉に頭をゆらしながら
私は冷静にも階段を降りていった
声を頼りにたどりついた先に
のぼるのは一筋の煙
新しく出来た小さな丘の上に
ぱらぱらと命を繋いでいた花をまいた
――なんとなく予感がしていたんだ
涙を流す少女の後ろで そっと目をとじる
指先には 今も撫でたときの感触が残っているのに
もう その暖かさを確かめることはないんだね
しゃがみこんだ彼女をおいて
私は来た道を戻る
裸足にとどく濡れた感覚と
見渡した中にとびこんできた オレンジの花
さぁ帰ろう
青と白の嶋に身を包もう
そして君をおくるための言葉をつづろう
もう耳を澄ましても 君の声はしないけれど
(私は鈍いから
それに気づいて泣くのは まだずっと後かもしれないけれど)
だから今はせめて
こうして心穏やかに
君が居たはずの生きたはずの
小さな世界に想いを馳せていたいんだ
『August 17, 2008 -- 空知らぬ雨』
作品名:2006-2010 詩集Ⅰ『あさ』 作家名:篠宮あさと