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2006-2010 詩集Ⅰ『あさ』

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11.

一羽のカラスが飛ぶ

漆黒の羽根を光らせて
緋色の空を越えていく

彼が抱えるのは一通の手紙
宛名もなく 届け先も書かれていない
隙間無く封のされた便箋袋

「言葉を届ける意味はあるの?」

毛並みの整った鳩が問う

「どこに行くかも分からないのに?」

カラスは振り向きもせずに鳴いた
ただ進むべき先を見据えて

「知らない振りをするのかい?
 ここに書かれた言葉だけは、確かに存在しているのに」

夜が訪れてしまうまえに
彼は窓辺に横たえる
誰かが零したひとつの言葉

出来れば破り捨ててしまう前に
一瞬でも届いてくれることを願って

それが祝いの言葉でも
それが呪いの言葉でも

カラスは空を越えていく
その漆黒の羽根だけでは
世界を変えることは出来ないから

闇も光も総てを知って
嘆きも悦びも憶えながら

総てを黒に映しながら


『August 24, 2009 -- 黒の翼』