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舞うが如く 第三章 10~12

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 それだけ言うと、明里を置いて、
近藤と連れだって立ち去ってしまいました。
たしかに8月の禁門の変以来、長州藩は失脚してその職を失い、
ほとんどの兵力が長州へと戻りました。
その一方で、巻き返しをはかる尊王攘夷派の志士たちが
密かに潜伏したまま、洛内で暗躍を続けて居るのも事実です。


 「たしかに・・・
 近頃では長州の志士たちの出没も頻繁なようだ。
 警戒するにこしたことはあるまい、
 どれ、送ってまいる。」



 残された形の琴と沖田が、互いの顔を見つめました。



 すでに公用の予定はなく、日も傾きはじめています。
会話もないままに、懐手の沖田が壬生の屯所とは反対方向にあたる、
二条城へと続く道を歩き始めました。


 二条城は、前年の文久2年(1862)に、
第14代将軍・家茂の上洛にそなえて、大改修が行われたばかりです。
それまで荒れ果てていた、二の丸御殿は全面的に修復され、
さらに本丸には、仮御殿も建てられました。



 「また、人を斬ったようですね。」

 沖田の背中を目で追いながら、琴がつぶやきました。

 「わたくしは、幸いにして、
 まだ人を殺めたことがありません。」


 懐に両の手を入れた沖田が、
琴の視線を背中で受け止めたまま、西の空を仰ぎます。
仲秋の日暮れは速く、もう山々があかね空の下で
黒々と染まり始めていました。



 「新撰組の結束は、
 法度がすべてを支配しています。
 時代の流れや大義のことは、総司にはよく分かりません。
 歳さんや、近藤さんが行けと言えば行くし、
 斬れと言えば、斬りに行くのです。
 総司はすでに、そう決めました。」

 優しいまなざしが、琴を振り返ります。
沖田が子供たちと遊んでいる時によく見せる、
澄んだ瞳と、ふと見せる優しいままの
そのまなざしでした。

 「この夏で、総司も、
 ようやく、20歳となりました。
 試衛館で育り、近藤さんに教えられて、
 土方さんや山南さんに可愛がられて、
 やっと20歳になりました。
 そういえば・・・
 琴さんに、やっと
 ひとつだけ追いつきましたね。」



 少年のような沖田の笑顔です。

 数歩離れた二つの影が、いつのまにか
改装されたばかりの二条城の白壁に、細く、長く、寄り添う形となって、
どこまでも伸びていきました。