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舞うが如く 第三章 10~12

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舞うが如く 第三章
(10)雨の帰り道


 島原の角屋では、50人近い芸妓たちが
ずらりと並んで隊士たちを出向えました。

 宴席の上座では、芹沢が床柱を背に、
いつものようにどっかりと陣取っていました
水戸藩出身の平山五郎と平間重助が、それに連らなっています。
近藤と土方は、その傍らに控えていました。


 琴と沖田は山南とともに、
出口に近い中ほどの席に座りました。
角屋の遊女、明里(あけさと)が、山南の耳元に何やら囁いた後、
琴と沖田の間に、ずかずかと割り込んできました。

 「沖田はん。
 こちらの美剣士はんは、お初どすなぁ。
 最前より、うっとりしとりますぅ。
 ええ男はんどす~」


 「これ、明里。
 こんなところで色眼を使っていては、
 お前の山南さんに、後でたっぷりと叱られるぞ。
 こちらは、中沢次郎丸殿といって、
 このわしから、見事に一本を取った凄腕だ。
 酒とおなごは、大の苦手ゆえ、
 しつこく勧めることは相ならん。」



 「ほんまどすかぁ、・・・
 新撰組で酒もおなごも、やらはんのどすか、
 まぁ、ずいぶんと
 清廉にありまする。
 みな、芹沢はんのようかと思ったら、
 こんな颯爽とした、
 男前はんも、居はるんですねぇ!」


 「そのくらいにいたせ。
 みな皆が、芹沢のように浴びるほど呑むわけではない。
 ほうら見よ、その芹沢がこちらを眺めて睨んでおるわ、
 たっぷりと呑ませて、
 酒乱殿のご機嫌を取ってくるがよい。」

 
 山南にせかされて立ち上がった明里が、
隊士と芸妓が入り乱れて、ひしめき合う酒席をかき分けながら
上座に向かって歩きはじめました。
その上座では、芹沢の愛妾・お梅や、
平山の馴染の芸妓・桔梗屋吉栄の姿も見えていました。
早くも卑猥な会話が乱れ飛んで、
ひときわ高い女たちの嬌声が響いてきます。