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充溢 第一部 第十一話

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第11話・2/2


 神父は愚かなことに、わざわざ屋敷に乗り込んできて、魔女を説得しようとした。小娘さえ説得できなかったと言うのに。
「あの聡明な娘を解き放ちなさい。
 君は、彼女と彼女のたった一人の肉親である父親を引き離したというではないか。
 金銭的な恩義で彼女を拘束して、自分の利益だけを引き出そうとするとは、正に魔女の所業。
 君は、人として当然感じるべき情念を否定し、悪魔の知識ばかり教えている」
 神父は、少女相手に威厳を見せようと、鹿爪らしい顔と口調を頑張って作っている。
 魔女は、一撃にして刺し殺してしまう目線を向けて牙を立てた。
「それは嘘だ。
 皆、嘘の関係が幸福に見えるとか、そんな詰まらない理由で、それに拘るのだ。
 人は、自分の幸福に自信がないと、人からその幸福を評価されやすい基準に逃げたがる。
 そして、そのような嘘に惑わされない人間が目の前に現れると、彼らは自らの基準が危機にさらされる。だから、その人を恐れるのだ。違うか?
 私は、私のために、スィーナーの上昇への意志を守る。スィーナーが、巷の大人たちに親思いの優しい子であると思われたからと言って、それが彼女自身にとって何だろうか?
 私は、スィーナーの智慧も誇りも、そして優しさも知っている。それを今更、貴様の基準で再評価して、貴様の幸福の基準に、何故合わせてやらなければならないのか。
 スィーナーを貴様の神の供物にさせはしない。
 貴様らが私を一千回火あぶりにしようとも、私は私を追求してやる。
 以上だ」
 男は、ポーシャの怒気に対処する事が出来なかった。
作品名:充溢 第一部 第十一話 作家名: