小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

充溢 第一部 第九話

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

第9話・3/4


 店から帰ってきたのは早かった。あまりにも早くては面白くないと、ポーシャはアントーニオを家に招いて、眠気が差すまで相手をさせていた。
「――それは、海賊のような考え方だな」
「お、ガキのクセに分かっていやがるな」
 アントーニオが指を指しながらにやりとする。表情は得意げだ。
 海賊というのは、リターンの反面、捕まるリスクがある。そのくせ、海上では一人の裏切りが悲劇的な結末に直結する。上から押さえつけるようでは、長続きしない。
 つまり、海賊が自由であるのは、それが最適解であるからなのだ。
 それに倣いアントーニオが船を仕立てるとき、仲介を入れないようにし、権限を大幅に委譲していた。
 これは、貿易を裏から牛耳っているつもりでいるブローカーや、因循姑息な商人、金のない労働者から金を絞り上げる借金取りから、酷く嫌われる結果となった。
「海賊のように、縛り首に出来ないと、人は他の酷い方法を考えるものだぞ」
「俺は逃げない。それで死のうが四肢を断たれようが、構うものか」
 商人は、自らを語るときの手振りが大きくなるクセがあるようだ。ポーシャはそれに構わず、前腕を内側に組んで顔を見つめる。
「勇ましいな」
「お前のところのメイドの方がよっぽだがな。
 それに、マクシミリアンがいるさ。いざという時は、アイツが俺を殺してくれる」
 表情を隠すかのように目を背けた。
「そんなに信頼できる男かね?」
 ポーシャは手を組み合わせ、しっかり据える。じっと見つめる。
「出来る出来ないじゃないだろ? 俺がするかしないかの問題だ」
 男が身を乗り出して訴えるのを見ると、少女は頬をかすかに緩ませた。
「男を相手にするならいい男だな」
「気持ち悪い事を言うなよ」
 手とかぶりを振りつつ苦笑する。
 ポーシャは思わしげに頷く。


「労働なき富は大罪だからな」
 脈絡なく男が呟く。
「なんだ、儂のことかね?」
「そんなんじゃねぇよ」
 男は酒杯を乱暴に置く。これぞ潮時とポーシャは深く掛けた安楽椅子から身を起こし背伸びをした。
「儂は寝る事にするぞ。夜も更けた事だし、今日ぐらい泊まるとよい」
「ガキじゃねぇんだし」
 ポーシャは笑い飛ばされると、見下す視線で言葉を刺し殺し、もう一度言った。
「お前はここに一泊しろ」
 顔色を変えたアントーニオを見て口調を戻す。
「酔っぱらいに門をくぐって貰っては、儂の沽券に関わるのでな」


※労働なき富
 ガンジーの七つの大罪
作品名:充溢 第一部 第九話 作家名: