舞うが如く 第3章 1~3
すれ違うように、
二人の姉妹を引き連れて沖田が戻ってきます。
そのすれ違いざま、沖田と一言、二言、言葉を交わした良之助が、
もう一度、琴を振り返るとにっこりとほほ笑んでから、
くるりと背中を見せました。
あとは懐に手を入れたまま、長身を揺らしながら
悠然と長屋門から遠ざかりました
姉妹の下の子が、
桃の花が咲く小枝を琴に差し出しました。
その額から首筋に至るまで、
したたるように汗が流れています
「おぬしのためにどうしてもと言って、
この子が、よせというのに
高い所まで登って折ってきたものだ。
顔は可愛いが・・・
どうして、なかなかに利発でやんちゃでもある、
おぬしが、余程に気に入っているようだ。」
汗びっしょりのその顔が、
沖田に言われてほほ笑みました。
琴が指先で受け取ろうとすると、その手を避けて、
琴の髪へと、小さな手を伸ばします。
「おぬしの髪に飾りたいそうだ。
子供がそのつもりで、
危険もかえりみず木登りをしてきたものだ。
今なら、この辺に浪士も試衛館の同士も見当たらぬ。
たまには、おなごに戻って、子供と遊んでみたらどうだ。
俺も疲れた故、一休みがしたい、
あとはまかせるぞ。」
それだけ言うと、
姉妹を置いて、沖田が立ち去ろうとします。
その沖田の手を、上の子が
しっかりと握って引きとめました。
春の日暮れが迫る八木邸の庭で、
琴は、下の子に手を引かれ、
沖田は上の子に手を握られて遊びます。
もちろん、琴の髪には下の子が取ってきたばかりの
赤い桃の花が揺れていました。
作品名:舞うが如く 第3章 1~3 作家名:落合順平