充溢 第一部 第三話
第3話・1/4
次の日の朝は、先生に呼び出されることとなった。
正しくは、ポーシャがそう言っただけの事だ。屋敷に着くなり、先生の低血圧な顔を拝むこととなったのは、ポーシャっぽい謀か。
「先に本題になるんだが……実は、準備が整っていてね」
髪を櫛でなでつけながら歩き回るプリージ先生を見て、全然支度できていないじゃないかと、一人心の中で笑った。
それは、勿論、工房の話だ。
意外に支度に時間の掛かる男だ……とりとめもない思考を巡らしながら、プリージの様子を眺めていると、そんな時間も悪くない。退屈な時間だが、退屈せずに済む心得はある。
「悪かったね」
そうは言うものの、悪いのは全てポーシャだという共通認識は語らずとも出来上がっていた。
公爵の一件でもそうだが、ポーシャは、そんな姿をわざわざ見せようとしているのだろうか?
単に私をおちょくって楽しんでいるだけなのだろうか?
工房へ向かう道中、プリージとの会話そこそこに、そんな事ばかりが気に掛かった。
私の自惚れだろうか? 或いは又、私を警戒しているのだろうか?
工房の目前で、その点に至り、恐怖を感じた。
工房は、小さく古い佇まいで、両隣のアパートメントが覆い被さるかのようだ。
贅沢ね。頭上の空間を全く利用しないなんて……
先の恐怖と、この印象が入り交じる。感づいたのか、プリージは口元のほころびを見せつけながら諭す。
「これから嫌と言う程見る景色だ。初めぐらい良い目で見てやってくれ」
作品名:充溢 第一部 第三話 作家名: