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茶房 クロッカス その4

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「もしもし〜、悟郎くん?」
「あぁ、俺だけど……、今どこにいるんだぃ? やけに賑やかそうだけど」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと待って。今外に出るから……」
 そう言うと、しばし優子の声が途切れた。
「――もしもし、悟郎くん。ゴメンね、今龍子さんの店に来てるの」
「あっ、おりゅうさんのとこに行ってたのか……」
 道理でなかなか電話に出なかったはずだ。カラオケでも掛かっていたら、いくら携帯が鳴っても気付かないだろう。
「ゴメンね。もしかして何度も電話くれた?」
「あぁ、ちょっと話したいことがあって……」
「そう、何かしら?」
「うーん。この状況じゃあ落ち着いて話せないだろう? また会った時にするよ」
「そうぉ? ――あっ、今ね、小橋さんも一緒なのよ! 悟郎くんも良かったら来ない?」
「えっ! 小橋さんが?」
《まさか、約束をして落ち合ったんじゃないよな。確かに小橋さんは物腰の柔らかい人だけど、でも優子に興味を持ってることは確かだし……》
 無意識に嫉妬と疑いの気持ちが湧き上がって来ているのに気付いて、我ながら驚いた。
《こんな気持ちになるなんて、一体何年ぶりだろう。いや、何十年ぶりかも知れない。それだけ俺の心を優子が占めているってことなんだなぁ》

「……もしもし、悟郎くん?」
「あ、ゴメン! 俺はもう寝るだけ状態だから今日は止めとくよ。早く分かってたら行ったのになぁ……。小橋さんとは約束してたのかぃ?」
「まさか! この前悟郎くんと約束したことの返事をしなきゃいけないから、龍子さんにちょっと相談しようかと思って寄っただけ。悟郎くんが来るなら待ってるけど、来ないのなら私ももうすぐ帰るわ」
《そうか、約束してたわけじゃないんだ。良かった〜》
 瞬時にそう思っている自分に気付いて《あぁ、俺って情けねぇー!》
 そんな俺の気持ちには全く気付いてないのか、優子が言った。
「――でね、この前の約束の返事なんだけど、悟郎くんの気持ちはとっても嬉しいし、龍子さんにも沙耶ちゃんには話した方がいいんじゃない? って言われたんだけど……、ゴメン! やっぱりもう少しだけ沙耶には黙っていてくれないかなぁ? 沙耶の気持ちも勿論なんだけど、正直、私自身がまだ自信がないの。ちゃんと悟郎くんを男性として受け止められるか……。だからお願い。もう少しだけ、私が自信持てるようになるまで、それまで待って欲しいの。……ダメかしら?」
 俺が即答しないもんだから、優子の最後の言葉には不安な気持ちが滲んでいた。
「ゴメン、優子。……ちょっと心の準備ができてなかったんだ。優子の返事はOKに決まってると勝手に思い込んでたから……」
「あ……悟郎く…ん…」
「大丈夫! 大丈夫だよ! 俺、今まで待ってたんだから、もう少しくらい平気だから。それに嬉しいニュースもあるし……」
「えっ、嬉しいニュースって?」
「――それが、メチャクチャ嬉しいことなんだ。だからまた今度会った時に、顔を見て直接話すよ!」
「えぇ〜っ、早く聞きたいわ〜」
「じゃあ、次にいつ会うか決めようよ! 早い方がいいなっ。ニュースは新鮮でなくっちゃね! アハハ……」
 そうして俺たちは次のデートを約束して電話を切った。


 正直俺は凹んでいた。
 まさか優子の返事がああいう返事になるとは全く予期していなかった。
 優子と元に戻れると思ったのは俺の自惚れだっのか……と、悲しくなった。
 他人から見れば、その時の俺はがっくりと肩を落としていただろう。
 しかしそれを優子に悟られるわけにはいかなかった。それを知れば優子はきっとプレッシャーに感じるだろう。
 DVで傷ついた心というものがどれほどのものかが俺にはわからない。
 男を信じられないのも哀れに思えるし、そういう自分に自信が持てないというのも優子の正直な気持ちなのだろう。
 頭では分かっていても、それでも俺は、気持ちが沈むのはどうしようもなかった。
 しかし優子にも言ったように、今まで待っていたんだから、もう少しくらい待てないはずないじゃないかっ! と、自分に言い聞かせて布団に入り、眠りについた。せめて夢の中で、優子との将来を楽しもう。
 俺は次のデートの約束だけを楽しみに、夢の世界へと入って行った。