茶房 クロッカス その4
俺は玄関のドアを開けて、優子を中へと招き入れた。
「へぇ〜〜、ここが悟郎くんの城かぁ……」
そう言いながら優子は、部屋の中をそわそわと見回した。
「そんなに見ないで。散らかってるのがばれちゃうだろ」
「そんなことないわよ。思ってたより綺麗にしてるのね」
「まぁ、そこに座って」
居間のソファーを指差してそう言うと、俺は台所に立って夕飯の支度を始めた。
「まだ晩ご飯食べてないだろう? ちょうど作っておいたカレーがあるから、一緒に食べよう」
「へぇ〜〜、ちゃんと自分で作ってるんだ〜」
「ちゃんとって言うのか? こういうの」
俺は市販のカレールーの空箱を見せて笑った。
「あっ、それ、私がいつも使ってるのと同じだ! うふふ」
「えっ、そうかい? 俺はこの中辛が好きでさぁ、これにジャガイモは入れないで作ると最高なんだよ!」
「へぇー、そうなんだぁ。じゃあ食べるの楽しみ〜」
「あぁ、温めるだけだからすぐだよ」
その後、ダイニングテーブルに二人で向き合ってカレーを食べ、居間で食後のコーヒーを飲んだ。
「悟郎くん、カレー本当に美味しかったわ!」
「そう? 何だか照れるなぁ、優子に改まってそう言われると。エヘヘ」
俺はいつもの癖で頭を掻いた。(ポリポリ)
「――ま、そんなことより、沙耶ちゃんのことなんだけど……」
「あっ、そうだった! 沙耶のことで話があるって言ってたのよね。うっかりしてたわ」
「…で、沙耶のことって、何?」
「うーん、実は……えっと、どこから話せばいいかなぁ……」
「……ん?」
「あのさー、優子。沙耶ちゃんの働いてる店、知らないって言ってただろ? それ、俺の店なんだよー」
俺は、何だか妙に顔が歪むような気恥ずかしさでいっぱいになった。
優子は俺の言った意味が分かってないのか、不思議そうな顔で俺を見ている。
少しして、ようやく口を開いた優子は、
「――それって、まさか……、えぇーーっ! 嘘でしょ? だって……、じゃあ沙耶がいつも話してたマスターって……?」
「そう。残念ながら俺のことなんだよ」
俺はまた、しつこく頭を掻いた。(ポリポリ……)
「ふぅーー。何だか信じられないわ」
大きな溜息をついて優子が言った。
作品名:茶房 クロッカス その4 作家名:ゆうか♪