The El Andile Vision 第3章
彼は急に体の傷口が痛みだしたかのような感覚に捉われた。
決して肉体的な痛みばかりではない。肉体以上に、彼の繊細な精神が、微かに悲鳴を上げかけていたのだ。
しかし、それは彼にとっては決して認めたくない感情だった。
イサスは、なぜ急にこんなに自分が弱々しくなってしまっているのか不思議に思い、無性に苛立ちを覚えた。
そんなイサスの胸中をよそに、ユアンは傍らで大きく息を吐いた。
「無茶をするな。また、傷が開くぞ。……少しは自分の体を冷静に見て、行動してはどうだ」
「――おまえに……そのようなこと、言われる覚えは……ない!」
イサスは息を荒げながらも、彼を支えるユアンをその腕の下から果敢に睨みつけた。
「……体は動かんでも、意気だけは衰えんようだな。面白い奴だ」
ユアンは呆れた様子で、手の中の少年を改めて興味深げに見返した。
「どうやら、立って歩けるだけの体力はまだ、戻らんか。残念ながら、今日は無理だな」
「……いや、そんなことはない!」
ユアンの言葉に抗するかのように、すかさずイサスは叫んだ。
少年の両足に力が入り、彼は何とかユアンの手を借りずにその場に踏み止まった。
「おまえの言うように、俺はザーレンに会って、確かめなければならない……」
イサスはそう言うと、ユアンを強い眼差しで見つめた。
その眼差しの中には、ただ審判が下されるのを待ち受ける者のみが持つ、あの果てしない絶望と希望の狭間で揺れ動く微妙な感情のうねりが現れていた。
「――俺を連れて行け、ユアン・コーク」
ユアンはそのイサスの、悲愴なまでの決意を露わにした顔を見て、思わず胸を衝かれた。
(ここまで――)
(ここまで、こいつは……ザーレン・ルードに気持ちを傾けているのか――)
少年のそのひたむきなまでの純真さに、ユアンは改めて驚きを感じると同時に、自身の中に僅かに羨望の気持ちが渦巻くのも否定できなかった。
しかし、当のザーレンは少年を切り捨てる気でいる。それは、先の彼との会見で明らかであった。
普通に考えれば、当然であろう。――政争のただなかに身を置いた、野心を捨てられない人間である限りは。
(しかし、実際のところ、どうするかな。ザーレン・ルードがこの少年と対峙したとき、果たしてどのような行動に出るか……これはなかなか面白い余興になりそうだ)
ユアンは、ふっと唇の端を緩めた。
作品名:The El Andile Vision 第3章 作家名:佐倉由宇