舞うが如く 第2章 10~12
実際、沖田の剣は凄まじいものがありました
実戦剣法といわれる天然理心流の中でも、きわめて技巧的といわれています。
とりわけ3段突きといわれる得意技は、剣を3度突くのですが
踏み込む足拍子は一度しか聞こえず、
その突きの早さは、一回にしか見えなかったといわれています。
江戸の旅発ち以降、
琴と沖田の二人連れがつづきます。
当たり前のように連れだって、時折、軽い会話を交わすだけで
あとは、連れ添う時間を楽しむように
前となり後ろとなって、旅が続いていきました。
良之助のかたわらは、常に土方が歩いていました。
数歩遅れて、芹沢鴨と水戸の攘夷藩士たちが続いています。
この陣形も江戸を出発以来、まったくかわらない順番でした。
「あの二人は、楽しみだな」
土方がそう言いながら、良之助を振り返りました。
「なにがでござる?」
「立会いに決まっておろう」
二人の間に芹沢が割り込んできました。
肩に鉄扇をかついだ芹沢が、のっそりと、
良之助の顔を覗き込みます
「実戦剣法で当代随一の使い手といえば、
やはり、沖田であろう。
しかし天狗剣法の法神流もあなどれぬぞ。」
いつの間にか、水戸藩士も追いついて、
それがひと塊りとなりました。
その塊りの先頭を、土方・芹沢・良之助の3人が、
並んで足を運びます。
「あのようにしつつ、二人とも、
呼吸を計りながら、常に間合いを探っておる。
いつ立ち会うのか・・・
これは浪士隊一同の、最大の関心事だ、
剣ならば沖田であろうが、
琴殿に薙刀をもたせると、ちと分からんのう。
あいや失敬!次郎丸であったか、
これはわしとしたことが、実に失敬いたした。」
芹沢の高笑いを背中で聞き流しながら、
琴と沖田は、無言のままに歩みます。
旅発ち以来、変わらぬままの歩調と間隔を保ったままに、
さらに上洛の道を歩み続けます。
作品名:舞うが如く 第2章 10~12 作家名:落合順平