舞うが如く 第2章 4~6
武州・秩父のことで
父の留守中に家に強盗が押し入りました。
日頃の剣術の腕を試さんと飛びだそうとした兄を
「賊は、入ったばかりのときは気が立っているものです。
むしろ立ち去るときの方が気が緩み、
心が留守になるから、その隙に乗じましょう」
そう言って、勝太少年が止めたといいます。
(勝太とは幼少期の名前であり、
勇は通称で、本名は昌宜(まさよし)です。)
そして賊がめぼしいものをひとまとめにして
逃げ出すときに、勝太少年は兄と共に飛び出しました。
不意を付かれた賊は、まとめた盗品を
投げ捨てて逃げたといいます。
それを深追いしようとした兄に、勝太は
「窮鼠猫を噛むということがあります。
盗られたものは戻ったのだし、放っておきましょう」
と言ったそうです。
このことが世間に渡って評判となり、
剣の師匠の周斎に、養子を望まれるきっかけになりました。
この養父こそが、天然理心流3代目の近藤周助のことで、
のちに近藤勇を剣豪として育てあげる、
育ての親となりました。
作品名:舞うが如く 第2章 4~6 作家名:落合順平