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舞うが如く 第2章 4~6

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 「近隣の男どもでは到底、歯が立つまい。
 武州の地より来た武芸者までも、
 手玉にとったとなると、
 いよいよに、琴の縁談は遠退くばかりであろう。
 いい加減に、
 適度なところで手をうってみたらどうじゃ、
 父上も母も、
 ともに琴の孫が見たいであろう。」

 「兄上の言葉なれども、
 わたくしは、私よりも
 弱い男のもとには嫁ぎませぬ。」

 「それは、よく承知しては居るが、
 潮時というものもあろう」
 
 「断じて、譲れませぬ。」

 「はてさて、困ったことだ。
 お前もこの春が来れば、
 もう23歳となるはずだが、
 男よりも、剣のほうを取るというのか?」

 「そうは申しておりませぬ。
 ただ、弱い男の言いなりにはなりとうはありません。」

 「相変わらずに、強情である。
 ところで先ほどの反応だが、
 お前も京に行きたいということであるか?
 わしには、そう聞こえたが。」

 「是非に。」

 「しかし、
 浪士隊に女では入れぬぞ。
 腕はもちろんのこと、将軍の警護という
 大事な役目をあずかることになる。
 女人禁制のうえ、色恋沙汰も御法度だ。
 それに万一のことも考えて、
 妻子たちは、生れ在所に戻しておけという指示もある、
 これもまた、たいした念の入れようだ。
 ともかくに、おなごのままでは
 厳しすぎる門戸であるぞ。」

 「ならばおなごを辞めて、
 男装を、いたしまする。」

 髪を一つにまとめてあげてから、
琴が廊下で、くるりと回って見せました。
横目で眺めていた良之助が、ほほ笑みながら言い放ちます。

 「こいつめ・・・
 最初からそう、腹は決めておいたと見える。
 さては、書き送った法神翁への手紙の内容が
 つつぬけとなっておったのであろう。
 やむをえぬ話である。
 父上には私から申しあげる故、
 お前は、旅たつ支度をするがよい。
 ただし、連れて行くのは妹ではなく、弟だぞ。
 できるか、その辛抱が。」

 「もとより承知。」

 よかろう、と良之助が、
廊下を踏み鳴らしながら、父の待つ部屋へと向かいます。
後に残った琴は、少しためらいながらも、
やがて、薄くかすかに塗られた口紅を、静かに
指でふき取りました。