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舞うが如く 第2章 4~6

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(5)江戸へ行く

 「京へのぼると、伺いましたが?」

 奥座敷にむかう途中で、
琴が良之助の背中へ声をかけました。
兄が入隊する予定の「浪士組」が赴く先は、
将軍警護のための京都です。
その上洛準備をすすめるために、
妻子を連れて、生まれ故郷に戻ってきたのでした。


 「2月になれば、将軍が上洛前に
 京へのぼることになる。
 行く先々のことは分からぬゆえ、
 妻子を頼みに来たのだが・・・
 なんだその顔は、
 なにかありそうだな。」

 空気をよんで、良之助が歩みを止めました。
やがて、手入れが行き届いた中庭に面した
渡り廊下で、立ったままの二人の会話がはじまりました。

 
 兄の良之助は身長が6尺余り(約180センチ)、
体重が20貫あまりという、たいへんな偉丈夫です。
琴も、5尺6~7寸(約170センチ)余りあり、女性としては長身です。
色白で、すらりとした容姿は近在でも評判で、
嫁の申し出が相次いで舞いこみます。

 しかし、琴には信念が有り、
「自分よりも弱い男のところには、絶対にお嫁に行きません」
常にと明言して、これをはばかりませんでした。
事実、いままでに申し込みに来た幾多の男たちは、
すべて一様に敗れ去り、もうこの近郷では、
琴に縁談をもちかける男は、皆無でした。