ヴァーミリオン-朱-
エピローグ
古い屋敷の一室で幼いエリスが呪架の髪を櫛で梳いていた。
鏡台に映る二人の姿はどこか物悲しい。
呪架の瞳は空虚に近かった。その瞳にただひとつ映されているのは、幼いエリスの姿だけ。
「ママぁ、呪架ちゃんはいつになったら元気になるの?」
幼い声でエリスはドアの傍に立っていたセーフィエルに尋ねた。
「わからぬ……」
「早く呪架ちゃんのお病気治るといいなぁ。治ったらいっしょにお外で遊ぼうね」
エリスは呪架の顔を覗きこんで無邪気に笑った。
おぼつかない腕で呪架はエリスを抱きしめた。
呪架はクツクツと嗤っていた。
精神を崩壊させた呪架と痴呆状態のエリスが育む歪んだ愛。
セーフィエルが呪架を発見したとき、すでに呪架の精神が病んでいた。そして、記憶を取り戻したと思われたエリスも、目を覚ましたときには幼いエリスに戻ってしまっていた。
匿うようにセーフィエルは二人を引き取り、人の目が届かない場所でひっそりと身を潜め暮らしていた。
帝都エデンがどうなったのか、〈光の子〉と〈闇の子〉の戦いがどうなったのか、夢幻の住人と化してしまった三人には関係のないことだった。
セーフィエルは二人の子供をただ見守り、深い悲しみを背負って生きていく。
なにも知らないエリスと呪架は幸せなのかもしれない。
傀儡の二人にとって時間は永久だ。
抱き合う親子に背を向けて、セーフィエルは無言で部屋をあとにした。
堕ちる闇は深さを知らなかった――。
(完)
作品名:ヴァーミリオン-朱- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)