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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ヴァーミリオン-朱-

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 光色の裂け目の?向こう側?から、笑い声が聴こえる。賛美歌が聴こえる。詩が聴こえる。息吹が聴こえる。どれも輝きに満ちている。
 呪架が叫ぶ。
「〈闇〉に喰われるがいい!」
 続いて慧夢が叫ぶ。
「美しく悶え逝け!」
 二つの裂け目からほぼ同時に飛び出した〈光〉と〈闇〉が激突する!
 強大な力のぶつかり合いで風が辺りを薙ぎ払い、呪架のローブが激しく暴れ、慧夢は両手を広げて風を心地よく浴びている。
 〈闇〉は〈光〉に押されていた。
 狂い叫ぶ〈闇〉を謳い舞う〈光〉が呑み込む。
 春の麗らかなせせらぎのように〈光〉が微笑んだ。
 〈闇〉への〈審判〉が下される。
 高らかな天のラッパがファンファーレを奏で、〈闇〉は完全に昇華されてしまった。
 爽やかな香りを残して〈光〉は還って行った。
「これが実力の差だよ」
 敗北した呪架の躰に巻き付けられえる慧夢の妖糸。肢体を巻き、胴を巻き、首を巻き、指の一本一本までを拘束した。それは普段、慧夢が帝都政府にされている仕打ちと同じ。
 全身の自由を奪われた呪架は、躰のバランスを取ることもできず、腹から地面に激突した。
 呪架の頭に押し付けられる慧夢の靴の裏。
 完全なる敗北。
「さようなら、愛しい紫苑」
 最後の止めを刺そうと慧夢が妖糸を放とうとした瞬間、いきなり慧夢は全身を激しく痙攣させ、苦痛に悶えながら地面の上でのた打ち回った。
「……ズィーベン……やめろ」
 喉の奥から慧夢は声を絞り出し、やっと痙攣が治まった。全身からは玉の汗を滲み出し、呼吸は酷く荒い。結界師ズィーベンがギミックを発動させ、慧夢の動きを強制的に制止させたのだ。
 息を荒立てながら立ち上がった慧夢が吐き捨てる。
「生きたままキミを捕らえろだとさ」
 そして、呪架は身動きひとつできないまま、迎えのヘリに乗せられて連れ去れたのだった。

《4》

 帝都の中でもっとも霊的磁場の強い場所が夢殿である。
 その敷地内に設けられた監獄。
 古墳のような形をした監獄の入り口を潜ると、地下への階段が伸びている。
 下った先にあるドーム状の部屋には、さらにドーム状のバリアが部屋の中心にあった。その中に捕らえられているのは呪架。
 全身を慧夢の妖糸で拘束されたまま、さらにアイマスクと口枷を嵌められ、最低限できる動作は床を転がることだった。
 入れられた当初は散々転がって暴れ廻ったが、今は動かずにただじっとしている。
 聴こえる音は自分の荒々しい呼吸のみ。憎しみや怒りなどの負の感情が沸き上がり、押さえられない気持ちが呼吸を荒立てていた。
 ここに来るまでに耳にした会話で、ここが帝都の中枢だということはわかっていた。それなのに呪架はなにもできない。
 復讐すべき相手がすぐそこにいるにも関わらず、自分はただ縛られ思考だけが先走りをする。
 呪架はくぐもった叫びをあげた。
 魔気が呪架の周りを暴れ狂って飛び交うが、その魔気もすぐに結界の力によって殺される。
 まずはこの場所からの脱出を考えねばならないが、そのチャンスの兆しすら見えない。
 アイマスクをされた呪架に見えるのは塗りつぶされた視界。希望は黒く塗りつぶされていた。
 ここを脱出したら、逃げることはせずに夢殿をぶっ壊すつもりで呪架はいる。そんな思いも、虚しさを感じる。
 ただ過ぎる時間は思考を巡らす時間になり、呪架は過去のことを回想していく。
 あのとき、呪架の目の前で起きた怪異。
 エリスはどこに消えた?
 あの紅い影は誰だ?
 帝都の仕掛けた罠か、それとも別の者の介入か?
 そして、双子の兄こと。
 あれが本当に兄とは信じられずにいた。
 ――なんで帝都になんか飼われてるんだ!
 心の中で呪架は叫んだ。
 兄は父に引き取られ、呪架は母に育てられた。父の顔も兄の顔も知らずに育ったが、呪架は母から多くの愛を注がれた。
 その生活を破壊したのは帝都政府だ。
 血反吐を幾度となく吐いて生き延びた日々。生きるために生きる日々。ただ生きることに必死だった。
 ただれた記憶を葬り去るためにも、呪架は復讐を成し遂げなくてはいけなかった。
 傀儡士としての業を磨き、ワルキューレの一人を倒したが、慧夢に敗北したことにより、己が有頂天になっていたこと知った。
 まだまだ強くならなければいけない。
 しかし、〈闇〉を極めようとすればするほど、五臓六腑が侵蝕されて犯されていくことも感じていた。
 それでも呪架は構わなかった。
 母を想い、呪架は改めて復讐を胸に刻んだ。

 黄昏で空が朱に染まる逢魔ヶ刻。
 周りを濠に囲まれた広大な夢殿の敷地全体は、普段から結界師の張った大結界で覆われている。帝都でもっとも侵入が困難な場所であり、中に入れたとしても精鋭の近衛兵やワルキューレが行く手を阻む。
 結界の盲点、〈ゆらめき〉を夜風が足音を忍ばせながら擦り抜け、難攻不落の夢殿に軽々しく侵入した。
 誰にも気づかれず、機械の眼すらも眩ませながら、霧のように夜風はセキュリティーを次々と突破していく。
 夢殿の敷地内にある庭園で夜風が月のような艶笑を浮かべた。
 夜魔の魔女セーフィエル。
 彼女がここまで簡単に夢殿へ侵入できた要因は〈ゆらめき〉以外にもあった。
 ワルキューレの永久欠番ノインの血は、元を辿ればセーフィエルのものだ。血族であるセーフィエルにセキュリティーが誤作動したのだ。
 そして、もっとも大きなの理由は、帝都で使われているテクノロジーのほとんどが、セーフィエルが基礎を築き上げた物なのだ。
 フィンフが戦いに用いた亜音速移動装置が良い例だ。
 断続的に亜音速を使用してセーフィエルは目的の場所へと急いだ。
 青々と茂る薫り立つ芝生。
 一面に広がった芝生の先に古墳のような土の山があった。
 その建造物の入り口は真鍮の扉で閉じられ、見えない力で固く封印されていた。
 しかし、この程度の封印などセーフィエルの手に掛かれば造作もない。
 セーフィエルの繊手が伸ばされると、扉の前で硝子が砕けるように破片が地に落ちた。
 開かれた扉を潜り、地下へと続く薄暗い階段を下りる。
 ドーム状の結界の中に捕らえられた呪架を確認し、セーフィエルはスリットから脚を伸ばして廻し蹴りを放った。
 蹴りを喰らって砕け散る結界。セーフィエルのブーツに結界を破壊する魔導具が仕込んであったのだ。
 呪架の傍らに膝をついてセーフィエルは囁く。
「助けに参ったぞ」
 アイマスクと口枷を外され、薄明かりの中で呪架はセーフィエルの顔を確認した。
「助けに来なくても俺ひとりでどうにかしてた」
「無駄口を叩くでない。早よう脱出するぞ」
「全身を糸で縛られてる切ってくれ」
 セーフィエルが呪架の躰を撫でると、妖糸は溶けて消えてしまった。
 やっと自由になれた呪架は、固まっていた躰を慣らそうと妖糸を放とうとした。
 が、妖糸が出ない。
 呪架の手に嵌められているバンドを見てセーフィエルが悟る。
「結界師の術が込められておるようじゃ。手に氣を溜めることができず、妖糸を練ることができないのじゃろう」
「クソッ!」
「妾でも呪解に時間が掛かりそうじゃな、後にするぞ」
「今すぐやれ!」
「敵がすぐそこまで迫っておる、後じゃ」