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舞うが如く 第1章 13~15

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 「遺恨を残すではないぞ。
 伊乃吉とて、立場もあれば、面子もあろう
 それはまた師としての、
 山崎孫七郎とてまた同じこと。」

 「これ以上争えば、
 又必要以上の血が流れることとなる。
 わしの命と引き換えに、双方の誤りを互いに認めて、
 後日、伊乃吉とは手打ちをいたせ。
 法神流の行く末と、嫁を頼む。
 伊乃吉も、もはや、
 そのことに、とうてい依存は有るまい。」

 早くも星たちが姿を見せ始めた街道を
房吉を乗せた戸板と門弟の行列が、静かに深山村へと進みます
残された伊乃吉の道場前でも、死人と怪我人の収容が始まりました。

 房吉はこの直後に、
厄年の42歳でその生涯を閉じました。
戸板に揺られつつ静かに目を閉じたまま、
高弟二人に看取られての最後になりました。
単身にて斬りむすぶこと、ほぼ一時間余り、
死者6名、怪我人多数をだした東沢入のこの騒動は、
不敗を誇った剣聖の命を奪って終演となりました。

 明治維新まではあと、10年余り。
風雲急をつげる幕末のただならぬ空気を、
いち早く察知していたのは、
他ならぬ、不世出の天才剣士・房吉自身だったのかもしれません。

第一章(完)