舞うが如く 第1章 1~4
(2)天狗の剣
詩を吟じ、時には屏風の上に飛び乗って、
真剣をかざして舞いを披露します。
屏風の上の剣舞は、
法神老人がほどよく酔った時の得意技です
器用にバランスを取りながら、
足先だけで、一双ずつ屏風を畳み込みます。
ひととおり綺麗に畳み終わると、ふたたび足を使って
一双ずつ、拡げにかかります。
ひとしきり屏風の上で演じた後は、
好物のどぶろくをたいらげてから、ふらつく足で帰宅いたします。
あっけにとられる弟子たちをしり目に、
いつものように、危ない足取りのままに立ち去るのです
江戸では名の通った「道場破り」でした。
弟子は取らず、飄々と市中を歩きまわっては、ひょいと足を止め、
相手が誰であれ他流試合にとおよびます。
負けたことは、ただの一度もありません。
しかし、浦賀に黒船が現れて以来、
騒然とし始めた江戸の空気に嫌気がさして、
数年前にふらりとこの赤城の山麓まで流れ着いてきたのです。
老人が作る、滋養と効能に富む呑み薬「法神丸」は評判がよく、
本名の富樫白星と名乗りよりも、いつのまにか、
「法神」の名で通用するようになりました。
作品名:舞うが如く 第1章 1~4 作家名:落合順平