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舞うが如く 第1章 1~4

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連載小説・舞うが如く 第一章
(1)赤城の天狗



 江戸時代末期、赤城の山麓を
軽快に闊歩する、白髪の初老の剣士が居りました。


 名を富樫白星と名乗り、剣術と柔術の両方に精通した達人です
住まいを定めずに、弟子の家々をめぐり歩いては日々を過ごしておりました。
蜂蜜に薬草を入れた手製の呑み薬は滋養に富み、
病後によく効くと、たいそうな評判です

 生まれも育ちも、
寡黙に語らないこの老剣士は、長くひとところにはとどまりません。
赤城の南山麓を中心に西は前橋から、北は峰を越えて
利根や片品方面までを歩きまわります。

 一日に数十里をあるくという、
たいへんな健脚の持ち主です。
まるで仙人のような風貌ですが、あえて本名は名乗りません。
通称を、短く「法神(ほうしん)」とだけ発します。



 「すきあらば、いつでも打ってよろしい」
と、板の間に端坐しました。

 小柄で細身の老剣士は、そう言うと、
好物のどぶろくの盃を静かに口にと運びます
ごくりと喉が鳴り、旨そうに目を細めました。

 弟子の木刀が、空気を鋭く切り裂きます

 徳利と盃を手にしたままの老剣士が、
ふわりと舞い上がり、片足で天井板を蹴りました
そのままクルリと一回転をして
音も立てずに、少し離れた縁側にと舞い降りました。