ねえ、言ってよ
「ねえもういい?ふたりでいちゃついて、入れねーよ」
息子がリビングの入り口で眉間にしわを寄せながら笑みを浮かべていた。
「お母さんたちいい感じ」
娘は兄の後ろから顔を覗かせ、微笑んでいた。
「やだなーもう」
久し振りの家族の笑みがそこに集まった。
「どうしよう。私、そんな事知らずに仕事始めちゃって」
「いいよ。とっても楽しそうだし、明るくなった。辞めたくなるまですればいい」
「母さんが、うるさく文句言わなくなったから結構賛成」
「ときどきケーキ買ってくれたら、私は嬉しいな」
「いいの?続けて」
「いいと思うよ」
子どもたちは、部屋へと帰っていった。
仁実は、リビングの椅子に腰掛けた正敏の横に腰を掛け、顔を覗き込んだ。
「ねえ、もう一度言って」
「もう駄目。覚えていたら、また来年」
「えー」
口を尖らす妻に正敏は言った。
「ねえ、言ってよ」
「私も、愛してる」
― 完 ―