【第十回・弐】おふくろさんよ
「何とか言いなさい?」
母ハルミの声がした
「…まったく…明日ナメコの味噌汁供えてやるからね」
話しかけている相手は仏壇
置かれているのは中年の男女の写真と黒い位牌と火のともされた蝋燭と線香
「生きてるなら…私がこうして元気なうちに会いにきなさいよ…」
答えの返ってこない位牌に母ハルミが話しかける
「私だけじゃなくヨシコちゃんも泣かせて…馬鹿野郎」
コィーン
母ハルミがリンを叩く棒で位牌を小突いた
「私におかえりを言わせて頂戴…」
どこからか入ってきた隙間風で蝋燭の火が揺れた
「何なさってるのですか---------------------------------!!!」
「シーッ!; ヒマ子さんシーッ!!;」
叫んだヒマ子に緊那羅が慌てて言う
「今何時だと思ってんだッ;」
京助も言う
「だッ…だだだだだだってですけどッ! 今ッ!! ひ…ッ!!」
ヒマ子が青い顔で葉をプルプル震わせて二人を見る
「膝枕だっちゃ?」
緊那羅が言う
「そうですわ! 膝枕!!」
ヒマ子がびしっと葉を緊那羅に向けた
「そういうことは妻がすることですわ!!」
「誰が妻だ; 誰の妻だ;」
ヒマ子が息を荒げて言うと京助が突っ込む
「妻じゃなくてもしていいと思うんだっちゃけど;」
緊那羅がボソッと言うとヒマ子が緊那羅に鋭い視線を向けた
「ソレは宣戦布告ですか緊那羅様」
「へ?;」
キラーンと光ったヒマ子の目
「…どうしてそうなるか;」
混乱してる緊那羅の代わりに京助が突っ込む
「愛人から妻への宣戦布告ですわね…ッ!!」
「誰が愛人だ誰の愛人だ;」
おそらく聞く耳には言っていないであろうと思いつつも京助が言う
「私はただ京助を守りたいだけで…愛人とか…ってそういうのじゃ…;」
緊那羅が苦笑いで言う
「お だ ま り に な っ て く だ さ い ま せ !!」
ヒマ子がペシペシと葉で緊那羅の頬を軽く叩く
「わかりましたわ…緊那羅様がその気なら…」
「いや…だから私はその気だとか…っていうかなんの気だっちゃ?;」
「…知るか;」
一人の世界に入ってしまったヒマ子に小さく突っ込んでいた緊那羅が疑問を京助に聞く
「私も考えがありますわ!!」
「だから私は…;」
例えるならエースを狙えのヒロイン、ヒロミを見下すお蝶婦人の様にヒマ子が緊那羅の前に立った
「あの…だから…;」
「…諦めろ;もうアカン;」
必死でヒマ子に何かを言おうとしている緊那羅の肩を京助が軽く叩く
「京様!!」
「はッ!?;」
いきなり名指しされた京助が自分を指差して驚く
「はっきりなさってくださいませ!! 私と緊那羅様! どちらの膝枕をお求めですの!?」
ヒマ子が京助を見ると緊那羅もチラッと京助を見た
「俺を巻き込むなよ…;」
京助が頭を抑えて溜息をついた
「さぁ!!」
ヒマ子が緊那羅の隣に立って京助に答えを催促する
「…てか…ヒマ子さん膝ってどこだっちゃ?」
横に立っていたヒマ子の全身を見た緊那羅が突っ込むとヒマ子が止まった
「…膝…」
ヒマ子が自分の茎を見る
「つぅか…横になっても土こぼれるからできねぇんじゃねぇ?」
更に京助が突っ込むとまたヒマ子が止まる
「…ヒマ子さん…?;」
数分間動かないままのヒマ子に緊那羅が声をかける
「…ショックで気ィ失ってる;」
ヒマ子の顔の前で手を振った京助が言った
「…お前ももう少し肉つけろな」
「やかましいっちゃッ!!;」
京助が緊那羅を指差して言った
作品名:【第十回・弐】おふくろさんよ 作家名:島原あゆむ