ドビュッシーの恋人 no.6
「僕は……」
「うん?」
「カフェで君のことがずっと気になってたんだ。でもその理由が今やっとわかった」
「ごめんなさい。今まで黙っていて」
「いいんだ。君を思い出すのに、こんなに時間がかかった僕が馬鹿だった。でも、これだけははっきり言えるよ。僕は今まで沢山の絵を描いてきたけど、君の似顔絵だけは、ずっと忘れられなかったと思うんだ」
エッフェル塔の下にある、トロカデロのメリーゴーランド。
そこでミランはクリスティーヌと出逢った。もうずっと昔に、だ。
「メリーゴーランドの前で、君を描いたときから惹かれてた。僕はどうしようもなく、君が好きだ」
クリスティーヌは微笑んだ。ありがとう、と、小さく声に出して。
もっと早く巡りあえていれば、二人は一緒にいることが出来たのに。わかり合えた途端に、また別れがやってくる。クリスティーヌはもうすぐウィーンへ行ってしまう。
「君のこと、待ってるよ」
「二年も離れるのよ?」
「構わないさ。僕は待ってたいんだ」
震えるくらい強くそう思った。
もうこの想いのやり場なんて、どこにもないとミランはわかっている。
「……もし、本当にそうなら、」
本当に私を待っていてくれるなら、次に会ったときは―――
最後に泣きそうな顔でクリスティーヌは言った。
切なさを紡ぐように、一つの約束をミランに残していった。
エッフェル塔の美しい明かりが心に沁みる夜。
始まることのなかった二人の恋が、パリの夜空に儚く消えていく。
月の光が、とても悲しい。
[to be continued...]
作品名:ドビュッシーの恋人 no.6 作家名:YOZAKURA NAO