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ドビュッシーの恋人 no.6

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ミランとクリスティーヌ



訳もわからず、ミランは前を歩くクリスティーヌの背中を追いかけた。
空には夕暮れから夜に移り変わる綺麗なグラデーションが広がっている。
エッフェル塔の全身が見える橋に辿り着いたとき、クリスティーヌは足を止めた。そして今度は鞄の中から、おもむろに一枚の紙を取り出す。
とても大切そうに見えたその紙を見て、ミランのある予感は確信へと変わった。

それは、ミランが描いたクリスティーヌの絵だった。
もうずっと前。学生だったときにエッフェル塔のメリーゴーランドで描いた、彼女の似顔絵―――。

「私、あなたに絵を描いてもらったことがあるの。そのときから、あなたに憧れてたわ」
「僕のこと、知ってたんだね」
「うん。だって、とっても評判だったよ。エッフェル塔のメリーゴーランドには、似顔絵を描くのが上手な男の子がいるって。しかも格好良いって有名だったんだから」

くすくすと笑い出す彼女に、ミランは驚きを隠せなかった。気恥ずかしくて顔が熱くなる。

「警察に注意されて、あなたはすぐにいなくなってしまった。だからパリ中を探したのよ。そして偶然あのカフェで見つけた。奇跡だって思ったわ」

ノートルダム大聖堂の裏側にあるカフェ『エスメラルダ』に彼はいた。何故かウエイター姿で。
それからクリスティーヌは毎朝カフェに通うようになった。

ミランはその話を、狐につままれたような気分で聞いていた。夢でも見ているのではないかと。作り話なのではないかと。疑ってしまうけれど、全ては本当の話なのだ。
なにしろ、ミランがさっきスケッチブックに描いていたのは、彼がずっと美術館で探し求めていた絵、そのものだった。
どこかで見たことがあると思っていたのは、他の何でもない、昔自分が描いたクリスティーヌの似顔絵だったのだ。

「あなたにまたこうして、似顔絵を描いてもらえて幸せだった」

ウィーンに発つ前に、クリスティーヌはそれをミランに伝えたかったのだろう。
全てを知ったミランは、今やっと彼女の想いの切なさを感じ取る。