アイラブ桐生 第二章
調理実習も二年の研修期間が終わり、
晴れて、近場に有る温泉旅館の板場での修行が始まりました。
まだ私には、どこかにわだかまりがありました。
デザイン関係の仕事に、たっぷりと未練を残しながらも、
手に職を付けて行くための、板前修行の日々でした。
板場での仕事は、項目ごとに細分化をされています。
新人に与えられる仕事といえばは、
後かたずけと、食器や道具類の手入れのみでした。
職人が最初に仕込まれることといえば、粘り強さと忍耐力の養成でした。
仕事を覚える前に、まずはその適応性が試されて、
さらにひたすら我慢する心と向上心の蓄積が求められました。
そこでの仕事ぶりが認められると、次に下ごしらえへと進み、
やがて野菜から魚、さらに肉へと階段をあがります。
煮物、魚の焼き物、汁もの、お造り(刺身など)などを、
その日の献立によって仕上げることが許されるのは、こうした下積みを終えた
板前さんだけに限られています。
これにも専属の板前さんが配置されていて、それ以外の多くの若手は
その下準備と補助として、荒く「こき使われる」のが常でした。
さて・・・
この年の八木節祭りには、一人で行くことになってしまいました。
いつも一緒に行く相棒が、些細な事故で入院をしたためです。
祭りの期間中は、大幅な交通規制があるために、
唯いつ通行が許された、市内循環のバスを使うのが常套でした。
しかし今回は一人だけということもあり、この日に限って
自分の車ででかけました。
市内の細い路地をいくつか抜けて、
「本町通り」の近くにある空き地へ、無事に駐車ができた時には、
われながら上出来と、思わずひとりで自分をほめました。
作品名:アイラブ桐生 第二章 作家名:落合順平