アイラブ桐生 第一章
浅草寺に突き当たってからは、左へ行く道に折れました。
小さな遊具が密集をする遊園地の、花屋敷の前を通り過ぎると、
かつて、六区と呼ばれた映画館街に出ました。
思い出したように時々会話を交わしながら、抱えこんだ右腕は
一度も離さずに、レイコは頬まで寄せて
常に、ぴったりと張り付いたままの状態でした。
「田舎じゃぁ、こんなの、とても無理だわね。
夢みたいだなぁ、こんなのって。
ねぇ、またどこかに行けたらいいね。
あんたと、二人っきりで、さぁ。」
それは、この日いち日のなかで、
レイコが発した、一番小さな声のつぶやきでした。
帰りのロマンスカーの車内では、歩き過ぎてすっかり疲れたのか、
小さな寝息を立てて、レイコが私の肩で眠りました。
時々、離れてしまうレイコの指先が、すこし戸惑ってから
私の指先を探しあてて、そっと戻ってきました。
この夜、山の手通りに有るレイコの自宅へ送り届けたのを最後に
また、レイコとは音信不通になりました。
作品名:アイラブ桐生 第一章 作家名:落合順平