津黄 〈 Tsu-o 〉
家に着いたのは夜の8時前だった。僕はナカイさんに丁重にお礼を言って彼のステーションワゴンを降りた。そしてシャワーも浴びずにそのままベッドに入った。ウイスキーはまだ体内に残っていて、目を閉じた瞬間に再び深い眠りが襲ってきた。
真夜中にはっと目が覚めた時、まるで長い夢でも見ていたような錯覚にとらわれた。さっきまで津黄にいたということがうまく信じられなかった。アルコールは抜けたようだったが頭は重かった。
僕は熱めのシャワーを浴び、ボディーソープを十分に泡立ててから体中に染みついた磯の香りを洗い流した。さっぱりした途端に空腹を感じたので、湯を沸かして茶漬けを作って食べた。夜中の2時半だった。
再び寝付けるようにと缶ビールを飲んでからベッドに入ったが、明かりを消すと今日の出来事が頭に絡みついて離れなくなった。それでもじっと目を閉じていると、夕日に照らし出された津黄の光景が脳裏に浮かび上がってくるばかりだった。それは現実よりもリアルな光景に思えた。
そのうちナカイさんが僕を津黄に誘った理由がなんとなく分かるような気がしてきた。結局僕は朝まで眠ることはできなかった。
作品名:津黄 〈 Tsu-o 〉 作家名:スリーアローズ