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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「夢の続き」 第八章 広島旅行

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「そうだよ。戦艦を日本海に派遣したかったんだけど南ア問題があったり戦費を使い果たして動けなかったんだ。日英同盟も苦肉の策だったと思うよ。しかし、日本がロシア艦隊を撃破したことは意外だったんだ。この勝利により世界的に国家として認められたんだからね。このときの対ロシア陣(ドイツ、フランス)に入っていた国がイギリスとアメリカだったのは皮肉だね」
「日本と協力してイギリスとアメリカはロシアと戦ったのですね」
「そう言うことになるね。戦況が不利な時にアメリカ大統領はロシアに対して停戦を模索したんだけど、バルチック艦隊で勝てると思っていたから、無視した。果たして、木っ端微塵に日本海海戦でやられて、しぶしぶ受け入れたんだよ、ポーツマツ条約をね。だから、千島列島と南樺太は日本の領土なんだよ」
「でも、帝政が崩壊してソ連になったらご破算になったんですよね。領土問題は」
「そういう国なんだよ、今も昔もね。ちょっと話がずれたけど、日本は決して植民地政策を進めたわけではないと言うことを知っておいて欲しいと言うことだね」
「韓国や中国の人は、そうは思ってないようですが、誤解と言うことで片づけられるのですか?」

佐々木はこの件に関しては戦争体験者として譲れなかった。多くの仲間たちの落とした命が可哀そうだったからである。

戦争を体験した人の話しからは悲惨さと二度としてはならないと言う決意は共通している。しかし、戦争の意味を聞くとばらばらになってゆく。正しかった、間違っていたと二分される。

「貴史くんはもし自分の親が信号無視して事故に遭って亡くなってしまったとして、相手から、自分は悪くない、事故は相手側の責任だ!と言われたらどう感じる?相手は怪我一つないんだよ」
「許せませんね。誠意がないと思いますから」
「そうだろう。戦争だって、避けられない事情に追い込まれて始めてしまうんだよ。だから侵略戦争じゃなかったって言えるんだよね」
「その点、アメリカやイギリスは帝国主義だから植民地政策を進めていたと言うことになりますね」
「そこだよ。自分たちのやってきたことは反省しないで、相手のやることに文句をつける。これじゃ、嫁いびりする姑だよ」
「日本は嫁だったのですか?」
「たとえだよ、ハハハ・・でも息子可愛くて嫁憎しっていう感情は喩えとはいえ、あながち間違っていないかもしれないよ」
「俺は、人種差別があったと考えているんですが間違っていますか?」
「大きな問題だね。そのことは感じられるが、日本人捕虜に対して寛大だった部分もあるんだ。もちろん日露戦争のときに捕虜にしたロシア人たちには人道的にそして高官には敬意を持って接していたんだ。軍人の殆どが鍛えられたプロだったからね。その点、大東亜戦争の初期は別として、一般人の鍛えられていない戦闘要員ばかりだったから、人道的な部分は無い奴らも多くいたよ。そのせいもあって、統制が緩み最後のほうは酷い状態だったんだ。変な意地を張らずに降参したほうが良かったのかも知れない」
「佐々木さんは、生きて戻られたことに誇りを感じられていますか?それとも悔しい思いをされましたか?」

この質問は日本男子としての威信を聞かれたようで、佐々木の返事はしばらくかかった。

「さっきね手を合わせていた多くの戦友たちに、毎年申し訳ないと詫びているんだよ。でもね、助かったことで、生き延びたことで限りある命の大切さと言うものを改めて感じたことも事実なんだ。その思いが平和のために大切だと言うことにも気付いた」

「そうでしたか。失礼なことをお聞きしてすみません」
「いいんだよ。君は素直で正直な青年だ。孫ぐらいの年齢なのにそんな風に感じない。私の息子なんかまったく興味無しで戦争のことを言うと、聞き飽きたって言われるよ。悲しいね」
「俺が変わっていると思いますよ。修学旅行で広島を訪れなかったら、こんな風になってはいなかったんです。洋子とも仲良くしてなかったかも知れない。俺にとってここは出会いと運命の場所になるような気がしているんです」
「ほう!素晴らしいことですね。若いって言うことは財産だ。今の想いを是非未来に伝えていって欲しいものだ」
「はい、社会の教師になろうと考えています。子どもたちに残しておきたいことがありますから」
「応援していますよ。是非そうしてください。ありがたいことだ。戦友たちも浮かばれるって言うもんだ。貴史くんには戦死されたおじいさんの霊が感じられるよ」
「霊ですか?おばあちゃんには生まれ変わりのようだと言われています。おじいちゃんと瓜二つなんだそうです」
「そうだったのかい!じゃあ、おばあちゃんも貴史くんには期待をかけてらっしゃるんだろうね。羨ましいよ、そんな関係でいられるなんて」
「ありがとうございます。おばあちゃんは20歳で兄の親友だった真一郎おじいちゃんと結婚しました。戦争で大怪我をして戻ってきて、疎開先の岡谷で終戦の前日の夜に亡くなりました。死ぬ間際に、俺は間違っていた、とおばあちゃんに語ったそうです。その意味を考えて欲しいと言われ、どうしてももう一度広島に来たくて洋子と母親の三人で訪れたんです」
「そんな事があったんだね。遺言か・・・何を言われたかったのかね。自分のしたことへの反省なのか、日本人としての反省なのかだろうね」
「おばあちゃんは違うって言いました。俺は、この戦争の真実を自分なりに理解出来るようにしたいんです。おじいちゃんの言葉には続きがあったのでしょうが言えなかったと思うんです」
「深いねえ。見つかることを祈ってるよ。そろそろ、息子と孫が戻ってきている時間だから。いいかい?」
「そうなさって下さい。俺もそうします」

貴史は佐々木の身体を支えるようにして歩き始めた。
「ありがとう・・・ありがとう・・・」
嬉し涙が止まらない。久しぶりに感動した佐々木の身体に、玉音放送を聞いたあの日のときと同じように暑い日差しとセミの声が降り注いでいた。


記念公園の慰霊碑の前で洋子たちと修司たちは待っていた。
「すまんな、遅くなって。楽しい時間だった。貴史くんには感心させられたよ。お母さんもいい息子さんを迎えられて幸せだ」
佐々木は由美に向かってそう言った。
「いえ、そんな・・・ありがとうございます」
「佐々木さん、まだ早いよ」
「そうだったな、ハハハ・・・どうも年寄は早とちりをするようじゃ」

笑い声が響いたあと、佐々木は息子と孫を紹介した。貴史も洋子と由美を紹介した。
「今日はどちらにお泊りなんですか?」
修司は由美に尋ねた。
「はい、駅前のステーションホテルです」
「それは偶然だ。同じホテルです、私たちと」
「そうなんですか!」

貴史はじっとしている修司の娘に声をかけた。

「恭子ちゃんだったね。今夜俺たちと一緒にご飯食べようよ。ここで知り合ったのも何かの縁だから。このお姉ちゃんも優しいからお友達になるといいよ」
「うん、ありがとう。パパ、構わない?」
「由美さんはどうですか?同じホテルと言うこともご縁ですね。是非そうしませんか?」
「はい、喜んで」