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The El Andile Vision 第2章

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 毛の先一筋たりとも動かすことなく、まるで魔術でも用いたかのように見える鮮やかさであった。
 イサスは剣を交わされた衝撃で机から転げ落ちた。
(なんだ、今のは――!)
 信じられぬ思いの中で、それでも彼は跳ね起き、再び敵に向かっていこうとした。
 そんなイサスの前にモルディ・ルハトが立ちはだかった。
「なめた真似をしおって――」
 モルディの剣が、息もつかせぬようにイサスに向けて打ち込まれる。
「邪魔をするな……!」
 イサスは舌打ちしながら、その剣を必死で打ち返す。しかし、その力も長続きしないことは自分の体自身がよく知っていた。
(ここでユアン・コークさえ倒せば、俺の役目は全て終わるというのに……――ザーレン……!)
 イサスは全身に再び押し寄せてくる痛みの波に耐えながら、半分朦朧とする意識の中で、その名を虚しく呼んでいた。
 何度目かの剣戟で、とうとう耐え切れずイサスの手から剣が落ちた。
 壁に背を押しつけた状態で、彼の眼前にはモルディの剣先が迫り、もはや彼はどうにも身動きが取れなくなった。
 前回モルディから受けた例の傷口はとうに開き、彼の足元には体から流れ落ちる血の滴でみるみるうちに血溜まりができていく。
「ユアン様。やはり、こやつはこのまま殺した方が……!」
 モルディが両眼を怒りにたぎらせながら、ユアンに迫った。
 ユアンの裁可を仰ぎながらも、その剣は今にもイサスの心臓を貫かんばかりであった。
「なりませぬ!」
 ユアンが答えるより早く、黒衣の女が鋭く制止の声をかけた。
 その厳しい声に、モルディは一瞬顔色を変えたが、すぐに目を剥いた。
「何を――魔導士ふぜいが、しゃしゃり出るな!」
「いや、ジェリーヌの言う通りだ。冷静になれ、ルハト。剣を引け。今度こそ、彼にはもはや抵抗するだけの力は残っていないはずだからな」
 机の向こう側から出てきたユアンがモルディ・ルハトのすぐ背後に立っていた。
「ユアン様……」
 振り向いて主の姿を認めたモルディはためらう様子をみせたが、ユアンのきつい眼差しを受けると止むなく剣を引いた。
「よし、下がれ、ルハト。おまえの役目はもう終わった」
 ユアンはモルディを押しのけるようにして、イサスの前にその身をさらした。
「ユアン・コーク……!」
 イサスは息を荒げながらも、なおも闘志に満ちた眼で、ユアンを見返した。
「立っているのがやっとだろうに、まだそれだけの気迫が残っているとは、全くたいした奴だな」
 ユアンは呆れたように息を吐いた。
 彼はイサスよりも長身であったので、向かい合うと少年を軽く見下ろす形になった。その眼が興味深そうに、改めて少年を検分する。
「おまえには、いろいろと驚かされる。ザーレン・ルードがどうやっておまえのような者を拾ってきたのかわからんが、実に羨ましい限りだ。できれば、私の方が先に見つけ出したかったものだな……――だが、私がおまえに興味を抱いているのは、何もおまえが兵士として有能だからというだけの理由からではない」
 ユアンはそこで不意に言葉を止めた。
 その眼差しに、一瞬何か妖しげな光が宿ったかのように見えた。
「――おまえには、まだ大きな秘密があるな。……このジェリーヌ・ヴァンダによると、おまえには何やらいわくつきの『力』なるものがあるらしいが。古代フェールの魔導士が生み出したという、あやかしの力が――」
 そう言いながら彼の微かに熱を帯びた眼は、イサスの胸元を探るように見つめていた。

( ... to be continued to the next chapter )