信長、蘇生せよ、この悲観の中に
この女は一体何を考え生きて来たのだろうか。
悲しんでいるかと思ったら、いきなり冷徹なことを言う。
奈美は、こんな場面の中で、「さらっと受け流すことにしましょう、単に機が熟していなかっただけ」と大胆なことを言ってのけている。
高見沢はその心の変貌ぶりに度肝を抜かれた。
そして、そんな驚きの感情を、どう相手に伝えたら良いものかわからず回りくどく言ってしまう。
「えっ奈美ちゃん、さらっと受け流すって? やっぱり相当なオナゴハンだよ、考え方が根っ子からシブトイよ」
奈美がそれをまたしっかり受け止めて、だが表情は痛々しく、厳しく質問して来る。
「さらっと受け流す以外に、この事態を抜け出すベストな方法はあるの?」
シャープな言い方だ。
ベストの方策なんかあるわけがない。
だからこの場合は、ベターの選択となる。 そんな事はわかっている。
高見沢は、奈美のそんな分かり切った詰問に反発を試みたい衝動に駆られる。
しかし一方で、奈美の「さらっと受け流す」という言葉に若干の安堵感さえ覚えているのだった。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊