信長、蘇生せよ、この悲観の中に
信長は、こんな奈美の癇癪(かんしやく)に、「どうもこれは、はなはだまずいぞ」と思い出した。
「奈美姫、それは誤解じゃ、光秀が恨みを持った相手は、拙者の部下のRぞ、Rは未成年で実名が出せぬ、あいつは若くてカッコ良くてのう … 拙者の監督不行届じゃ、反省しちょるぞ」と必死。
「へえ、Rね、それって蘭丸の事よね、信長君、そんなのわざわざイニシャル使って隠さなくたっても、丸わかりよ」
「奈美姫さま、お見事! 真に賢いおなごじゃのう、お綺麗な奈美姫さまなら、きっとRによく似合うぞえ」と、信長がさらりと持ち上げて来る。
「そうね、美少年の蘭丸だったら、私だってどうなるかわからないわ、蘭丸と激しい恋に落ちてみたい気もするわ」
奈美はうまくお世辞に乗せられて、ふんわか気分。
しかしそれも束の間、直ぐに我に返り、今度はただただ呆れ顔。
「妻に裏切られた明智光秀・五四歳、本能寺の変は歴史上一番のミステリーとか言って、みんな大騒ぎしているけど、実は妻の不倫相手、蘭丸を私憤で殺すために、光秀が本能寺へと攻めに行っただけの話しだったの? ねえ、高見沢さんと信長君、もう一度確認するわ、本能寺の変はただの不倫騒動だったと言うのね」
「そうだよ」
高見沢はあっさりとしたもの。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊