信長、蘇生せよ、この悲観の中に
翌日、高見沢は奈美と信長を愛車に乗せて、京都から安土城跡へと向かった。
本能寺の変があったのは、一五八二年六月二日。
その時からもう四百年以上の歳月が流れてしまっている。
しかし、織田信長は時空を越えて、戦国の世からこの現代社会へクローンとして蘇生した。
そして、信長そのものの魂もすっかり刷り込まれた。
つまり、まったく同一人格の信長が生き返ったのだ。
時の流れは光陰流水の如し。
信長は安土城跡が近くなるにしたがって、実に感無量。
日本歴史上で、最も研ぎ澄まされた鋭角な男が、センチメンタルに陥ってしまっている。
「安土の城は、燃え落ちて消え失せてしまったのだなあ … 安土の地を繁栄させ、馬揃えでもって御所で威嚇したように、ここから京に武力を見せ付け、コントロールしようと考えておったのにのう、禿(は)げ光秀が公家の陰謀に乗りおって、折角作戦通りに行くところを、あ〜あ、夢まぼろしのごとくなり」
信長は、その夢幻泡影(むげんほうよう)の波乱人生四十九年を想い出し、似つかわない感傷に浸っている。
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊