信長、蘇生せよ、この悲観の中に
「織田信長株価上昇プロジェクト、それは、南禅寺の山門前から二人でタクシーに乗ったろう、そこから始まったんだよ、だから、きっとそこが、我々二人が戻るべき原点だったんだよ」
奈美は、高見沢のこんな理屈っぽい話しをじっと聞いている。
しかしその意味がよく飲み込めたのか、少し元気が戻って来る。
そして声のトーンを上げて返して来る。
「高見沢さん、ありがとう、私達の本当の原点回帰、そうねえ、私をもう一度、南禅寺の山門前からタクシーに乗せて頂戴」
「それで、どこへ行きたいんだよ?」
高見沢は、いつもの気っ風の良い奈美に戻ったのが嬉しい。
「そうねえ、この悲観ばっかりの状況を抜け出すためには、次のテーマとして、愛とロマンを追い掛けるしかないわよね、そうだわ、宇治橋で浮舟に会って、源氏物語・宇治十帖をテーマにしましょうよ」
高見沢は、こんな奈美の我が儘に不満たらしく答え返す。
「えっ、宇治橋って、めっちゃ遠いじゃん、そこへ行くのに南禅寺の山門前からタクシーに乗るの?」
こんな男の躊躇に、奈美は有無を言わさぬ調子で訴えて来る。
「そうよ、そこから私達の未来に向けて、新しい夢浮橋プロジェクトを走らせましょうよ」
それから奈美がぽつりぽつりと呟く。
「高見沢さんと … そんなことをして、ハラハラと遊んでる時が … 私、一番幸せを感じるの」
高見沢は、こんな奈美の心の奥底に眠る言葉を聞いて、「あーあ、もう仕方ないよなあ」と諦めた。
そして、精一杯の思いを込めて、奈美に囁き返すのだった。
「奈美ちゃんへの強い愛が、この株価凋落(ちようらく)の悲観の中で生まれてしまったよ … ブル・マーケット、そう、強気相場の代わりにね」
おわり
作品名:信長、蘇生せよ、この悲観の中に 作家名:鮎風 遊