魔物達の学園都市
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王の間と呼ばれる豪華な内装の一室で、ヴラド・フォン・ヴァンシュタインは外を眺めていた。
学園都市の中心に聳え立つ巨大樹『イルミンスール』。その幹をくり抜いて城とし、この居室はその中でも最上階に位置する。
この階の高さは、地上四百メートルもあるだろうか。
未だ成長の止まっていない霊樹ゆえに、年々この居室も微かにだが高さを増している。
室の窓からは、今この学園都市を襲っている『災厄』の様子が一望できる。
ただの植物とでも思われているものか、イルミンスール自体は、まだ攻撃対象にはなっていない様子だが、それもいつまでの事かは分からない。
ヴラドは車椅子の上で、何かを呟く。
と、後ろに控えていた壮年の侍従が、隙のない所作で、予め用意していたトレーを差し出した。トレーには一枚の皿があり、その上には真紅に照り輝く何かの肉が載っている。
侍従はその肉をフォークで刺すと、それをヴラドの口元に運んだ。
数回咀嚼し、ごくり、と、喉を鳴らす。刹那、ヴラドは車椅子から立ち上がった。
「まったく、あの小僧め。この儂に手間をかけさせるか……」
侍従に背を向けたままで、ヴラドは手も触れずに窓を開けた。
強い風が駆けこんで、室内の調度品を揺らしていく。
「行ってらっしゃいまし」
恭しく侍従が一礼すると、ヴラドは浮き上がり、滑るような動きで窓から飛び出して行った。
若々しく雄々しく、そして禍々しいかつての姿で。