舞~紅と黄金~
「マチコさん、手を繋いでもいいですか?」
マチコは頷いた。
あの温かい掌にマチコの小さめな手は包まれてしまった。
マチコは、言葉をなくしたかのように黙ってしまった。
「マチコさん、マチコさんは、どちらの葉が好きですか?」
「・・・?」
「あかくなる葉?黄色くなる葉?まあモミジか、イチョウでもいいですが」
「紅葉したもみじかな」
「僕は、ほらあの正面の右にある木。イチョウの葉の黄葉が小さいときから好きです。
モミジもですが、イチョウの葉の形って不思議じゃないですか?それもいいと思って」
マチコは、少し、淋しかった。きっと同じものが好きと言ってくれるかと思っていた。
「気が合いませんね」
「そうでしょうか。みんな違うんですよ、葉だって。木だって違うんです」
マチコの手を離し、男は足元のモミジとイチョウの葉を拾い上げた。
「色だって、形だって違うのにこの公園には一緒にあって落ち葉が交じり合って、こんな色模様を見せてくれているでしょ」
「ええ、綺麗ね」
「マチコさんがモミジ。僕がイチョウ。生まれ育った環境が違ったって、出会えて交じり合って。あ、いやそのー」
「続けて」
「お互い別々の木、職場に居ても、公園で、同じ場所たとえば家とかで色を重ねて終われたらいいなって」
「人に蹴散らかされ、踏みつけられ、竹ぼうきで掃かれ・・・」
マチコの頭の上から葉が舞い落ちた。
「舞い散らされ・・・ですか」
マチコのコートの上に真っ赤なモミジ黄金色のイチョウ。
そして緑色の葉とまだらな葉がくっ付いた。
「いつか、一本の木になりたいとは言いません。同じ庭で同じ陽射しを浴びて過ごしませんか?」
マチコは、潤む瞳をこらえながら『はい』と頷いた。
夕陽が綺麗な公園のベンチ。ふたつの影が重なった。
− 完 −