Da.sh
横浜ベイブリッジの下をくぐり東京湾へと出ていく、1台の水上バイク。
長く伸びていく白い航跡は泡となって左右に広がっていく。
6時まで後10分を切った。貨物船まであとわずか。最大のスピードを出す。
貨物船の左側に回り込んだ。
2つの影が宙を舞い、海に落ちた。
浜崎から突然かかってきた携帯電話。
事実なのか!?
浜崎の話を聞くと、荷物は置いたまま甲板に出た。
水上バイクが近づいてくる。
尻ごみする守を励まして、足から水に突っ込めば大丈夫だからと俊介は、守の手を取り船べりを蹴ったのだ。海面まで6メートルはある。
浜崎は横に積んでいた浮き輪を、スピードを緩めてから思いっきり放り投げた。
二人は水面に浮きあがると周囲を見回し、浮き輪を見つけるとそれをめがけて泳ぎ出した。靴を取り、ズボンを脱ぎ棄てて。油の臭いと水の冷たさなど意に介している暇などない。
二人が浮き輪に手をかけたのを確認するとバイクは再びスピードを上げ、そのまま房総半島を目指して直進した。
貨物船はその時、大音響を上げたのである。
ドッカ――ン
大音響とともに黒い煙が甲板を包み込み、空中に立ち昇っていった。
さらに続けて2回爆発音が轟き、紅い炎が甲板を舐めまわし始めた。厨房で料理をしていたのだろうか、どうやらガスか燃料に引火したらしい。
ベトナムへ向けて出航するはずだった船はふたつに折れた中央部を天に向け、火と煙を纏ったまま海の中に沈みゆこうとしていた。
俊介は浮き輪に腕をかけ、取っ手をしっかりと握ったままちらりと振り返り、それを見た。
高台にある公園から、水元は沖合の沈みゆく船と、その先を米粒のように小さくなっていく水上バイクを凝視して口角を少し上げると、吸っていた煙草を吸い殻入れに投げ入れ、その場を立ち去った。