人生初修羅場
俺の知っている荘一は、俺のどころか自分の誕生日にも無頓着だし、ロマンチックな演出なんかとは無縁の朴念仁で、あんな映画が大好きなんだからそういうのに憧れはないわけではないのだろうけれど、それをさらりと実行できるような器用さみたいなところはほとんどなくて。
俺と同じ。確実に安全なこと以外は、怖いからしたくない。だけどそういう映画ばかり見ている。憧れはあるのだろうけれど、それを実行できるような問題解決能力は多分備わっていない。だから、少し混乱しただけでどうしていいかわからなくなって、無駄に右往左往して、これを慣れないことして足が攣ったと言わずしてなんと言おう。
結局、俺たちは双方ともに似たようなことをしていたのだ。
「はは、はははは……」
口から、勝手に力のない笑いがこぼれだした。
「あーもう、まったく……」
俺はそのまま、笑った。笑い続けた。それでやっと思い出した。
荘一と一緒にいようと思った理由。よく聞く、一緒にいたらどんな困難も耐えられるような気がするとかそんな格好いいものじゃなかった。そもそも俺は、困難に立ち向かうどころか、できる限りそういうものに出くわさないようにして生きていきたい人間だった。
こいつと一緒なら、たいして予想の範疇を超えることも起きず、無理せず、堅実に、そして穏やかに過ごしていけるだろう。そう思ったからだった。
きっとずっとこうやって、笑っていられる。派手なことをしたらすぐ失敗する情けない奴同士、だけど、お互いが好きで、好きで。
視界がじわりと滲んでいるのは笑い過ぎたせいだけじゃない。だけど、俺は本当にうれしくて、面白くて、幸せで、楽しかった。
何も起こらなくていい、起こらないほうがいい。そんなことが幸せだって思えるふたりで、ちょうどいいじゃないか。
本当に滑稽で、そして心の底から幸せで、喉が痛くなるまで、俺はずっとずっと笑い続けていた。最初はやや悔しそうな表情だった荘一も、そのうち笑い続ける俺を心配そうに見て、最後には一緒に笑い出した。いつまでもいつまでも。
そして、ずっと笑い続けていられる。そう、思えた。