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てっしゅう
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「夢の続き」 第六章 伊豆旅行

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第六章 伊豆旅行


片山の書いた「戦争とおばあちゃん」は教師の間からも高い評価を得て、全国高校生作文コンクールに出品することが決まった。夏休みに書かれた多くの作品の中から貴史の作文は優秀賞に輝いた。一番ではなかったが、いわば全国で二人の準優勝に値する評価であった。

貴史の家で優秀賞のお祝いを両親と姉恵子、祖母の千鶴子が集まって行われた。
「貴史!おめでとう」父親の秀和は満足そうな表情でそう言った。姉の恵子も驚いたように、「あなたにそんな才能があっただなんて・・・女好きなだけじゃなかったのね」そうイヤミを交えて笑っていた。
「恵子!なんて事を言うの。お祝いの席なのに」
母親の美佐子は注意した。

「母さんいいんだよ。姉ちゃんはラブラブで頭がボケてしまっているから」
「何よ!あんたこそ酷いことを言うじゃない」
「二人とも止めなさい!今日は喧嘩をするな。祝いの席だぞ」
たしなめるように秀和が怒鳴った。
「秀和、仲がいいから喧嘩するのよ。あなたも大人気ないわよ、大きな声出して・・・」
「お母さん!甘やかすとよくないんですよ。黙っていてください」
「おやおや、父親面するのね。貴史はあなたも驚くぐらいに勉強して成長したのよ。恵子だってこのごろ綺麗になったし。あまり細かい事言わないほうがいいんじゃないの?」
「たまに来ると私におせっかいですか・・・孫に甘すぎますよ」
「いいじゃない。可愛い孫たちなんだから・・・あなただってすぐに解りますよ、ねえ美佐子さん?」

そう義母にふられて、困った表情をしていた母親に向かって、貴史は、「そうだよ。すぐに孫の顔見せてあげるから、なあ姉ちゃん?」姉を見てそう言った。
「私なの?なんで」
「だってラブラブなんだろう。もうすぐじゃないの結婚も」
「バカ!まだ大学生なのよ。出来る別けないじゃん。あんたのほうが早いかもよ」
「高校二年だぜ・・・ありえねえ」
「洋子さん来年18よ。ありえなくなんか無いし」
「貴史、そうよ。私だって秀和を生んだのは21のときだったから、洋子さんだってあと3年よ。すぐじゃない?」
「おばあちゃんまで・・・おれ先生になるんだよ。大学4年間は勉強しないといけないから無理だよ。やっぱりおねえちゃんだ」
「私はむり・・・そういう仲じゃないし」

何か訳ありな言い方をした恵子であった。

恵子は声を掛けられた男性と夏休みに旅行に出かけていた。うきうきしながら出発をしたが帰ってきて楽しそうに話をしなかったから母親も父親も気にはなっていた。もちろん貴史と洋子の旅行は内緒だったから家族は千鶴子を除いて誰も知らない。

食事が済んで貴史の祝賀会は終了した。千鶴子を深川まで車で送っていった秀和が留守をしている間に恵子は貴史を部屋に誘った。
「なんだい、お姉ちゃん?」
「貴史諏訪湖へは誰といったの?」
「えっ?一人だよ。母さんにそう言ったはずだけど」
「ウソでしょ?洋子さんと一緒だったんじゃないの」
「なんでそう思うの?」
「あんたが一人で出かけるなんて思えなかったからよ」
「勉強の為だよ。一人でだって行くさ。それより、お姉ちゃんは旅行はどうだったんだい?聞いていなかったけど」
「普通よ。楽しかったわ。何が聞きたいの?」
「ふ〜ん・・・それだけなの?たとえばどこが面白かったとか無いの?」
「特にはね、無いわ。一緒に居ただけで楽しかったから・・・」
「お姉ちゃん、ウソは止めようよ。顔はそう言ってないよ」
「貴史になんか何が解るというの!」
「どうしたんだ?変だぞ。父さんや母さんに言えなかったら俺に言えよ。こう見えても、頼りになるかも知れないから」
「いいのよ。済んだ事だから。あなたは洋子さんとずっと仲良くしてね」
そう言うと、恵子の目から大粒の涙が零れ落ちた。
貴史はそり沿って肩をしっかりと抱いた。

「姉ちゃん!何故泣くんだよ・・・話せよ」
「貴史・・・お姉ちゃんバカだった。男の人に誘われて自分を見失っていた。あんたが言ったように、遊ばれたのよ」
「酷い奴だったんだなあ。純情なお姉ちゃんを騙すなんて・・・俺が許さない。文句言ってやるから会わせてくれないか?」
「いいの・・・奥様がいらっしゃるから、私が悪くなっちゃう」
「なんて言った?結婚してたの、その野郎?」
「知らなかった・・・泊まって帰るときにそう言われた」
「それって、詐欺だよ。解らなかったのかい?」
「なんとなくそんな感じはしてたけど、聞き質せなかったの。優しい人だったから、つい・・・信じようとしたの」
「お姉ちゃんバージンだったんだろう?」
「うん・・・」

洋子とは違う形で喜べずに女になった姉が可哀そうで切なかった貴史であった。

父親の秀和が戻ってきた。
「ねえ、父さん。諏訪湖の佳代さんと美枝さん覚えている?」
貴史は話しかけた。
「覚えているよ。よく遊んでもらったからね、美枝さんには」
「そうなの。近々ね東京に遊びに来るんだよ二人で。一緒に会ってくれないかな?」
「そうなのかい?そんな約束してきたのか?」
「うん、僕を泊めてもらったお礼にね、今度はお世話してあげたいって思ったんだ」
「そうか、じゃあ、おばあちゃんと一緒に東京見物しよう。それとも、みんなで温泉にでも出かけるか?」
「そうだね。ゆっくり出来るものね。近くでいいところある?」
「熱海があるじゃないか!伊豆でもいいぞ」
「そうか、山の人だから海の幸がいいかも知れないね」
「貴史はなかなか気が利くな、ハハハ・・・それからな、その話はいいとして、恵子の事が気になるんだが何か聞いているか?」
「お姉ちゃんの事・・・直接聞いたら?」
「お父さんだと話しにくいことだってあるだろう」
「俺だって男だし同じようなもんじゃないの」
「そうか・・・お母さんに頼んでみるか」
「それがいいんじゃないの」

貴史は知らない振りをした。

母親の美佐子は恵子の部屋をノックした。
「入っていい?」
「お母さん、いいよ」
「お父さんがあなたのこと心配しているから尋ねて来いって・・・言いたくなければ言わなくてもいいのよ。でも、話せるなら聞きたいの。あんなにうきうきしていたのに元気ないから」
「ありがとう・・・貴史に聞いてもらったの。もう大丈夫だから心配しないで。一緒に旅行に行った人とは別れたの。奥さんが居たから・・・傷ついたけど、これも勉強ね。そう思って次はちゃんとした人を見つける。本当に私のことを好きになってくれる人を探すわ。見た目じゃなくてね」
「恵子、そうだったの・・・お母さん何も知らなかった。ゴメンね、あなたが辛い思いをしていたのに・・・」

二人は抱き合ってしばらくの間泣いていた。涙はその流した量だけ悲しみを洗い流せる。

この年昭和63年9月17日にソウルオリンピックが始まった。そして開会して間もない19日月曜日に療養中の天皇の容態が悪化して報道関係は特別体制に入った。

貴史の家に岡谷の佳代から電話がかかってきた。
「片山さまのお宅でしょうか、百瀬佳代と申します。貴史さんは居られますでしょうか?」
美佐子が電話に出た。
「はい、片山です。貴史ですね、少々お待ちください」
電話口に貴史が来た。