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夏風吹いて秋風の晴れ

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いつもの わがままで


「なんやぁ あんさん、めずらしいなぁー」
こっちを見て遠くから大きな声でステファンさんに言われていた。
あわてて、直美と頭を下げると、巨漢を揺らしてこっちに歩いてきていた。
「聖子はんは、さっき帰ったでぇー あんさんらくるさかい、お昼の用意せなぁー 言うてぇ」
「あっ、そうですか・・・これからお邪魔するんですけど・・」
「そうかぁ、なんかようですの?」
林さんが伝えたようだった。
「あのう、よくわかんないんですけど・・お払いみたいのっていうか、祈祷みたいっていうか・・・そんなのあるんでしたっけ?ほら、なんていうかなぁ、品物にっていうのかなぁ・・祝福っていうんでしたっけ?なんでしたっけ・・・」
自分でもよくわからない言葉をだしていた。
「なに、言うてますの・・さっぱりですやん。なにをどうしたいんですの・・」
「うーんとね、十字架っていうか、これなんですけど・・なんかご利益あるように・・お祈りってしてもらえないかと・・・」
直美の首の新しいネックレスを指差してステファンさんに説明していた。直美はそれをキョトンとした顔でだった。
「なんやぁ・・今頃・・・それやったら、昔にきちんとしましたで・・」
「あっ、あのですね。これはいつものと違うんですよ」
そっくりだったから ステファンさんがそういうのは当たり前だった。
「ステファンさん、これね、新しく劉からもらったんです」
直美も一緒に説明だった。
「ほぅ、同じに見えまっせ。わてには・・そっくりなんを作りなはったんか?なんでや」
「前のは叔母さんに今日これから返すんです」
「ほぅ・・なんでですの・・」
「うーん、ほら、弓子ちゃんも純ちゃんも来たし、きっと聖子叔母さんってこれ大事にしてたんだと思うし・・そっちがいいかなぁーって直美と・・」
「ほぅー そうでっかぁ・・まぁ、あんさんらしいって言えばそうかぁ・・で、代わりにこしらえましたんか?なるほどぉ・・ま、あほらしぃ ゆうたら、それまでやけど、あんさんと直美さんらしゅうてええか・・・」
二人で、思わず苦笑いだった。
「ほな、直美さん、それ外したってや」
「はぃ」
返事をして直美が器用にネックレスをはずして、それをステファンさんに渡していた。
「ほな、こっちに・・」
くるっと向きを変えて祭壇に向かって歩き出した巨漢の後ろに二人でついて歩き出していた。
「どうするの・・劉・・」
「うーん どんな事するのかは、わかんないや・・」
「そうなのぉ?それなのにお願いしたの?」
「うん。でも、したりするんじゃないかなぁーって・・見たことあるような・・うーん。でも、きっと何かしてくれるんじゃない?」
記憶では見たことがあるはずだった。
「うん、そうだとは思うけど・・」
小さい声で歩きながら二人で話していた。

祭壇の前にステファンさんがたどり着くと、小林さんを手招きして、小声で何かを指示しているようだった。
「ほな、まっすぐ横にならびなはれや」
こっちに向かって言われていた。
二人で返事をして真横に並ぶと、小林さん静かに聖水らしいものが入った金属の器を持ってきていた。コップって言ったら怒られそうな、杯っていうような、なんて呼んでいいのかわからない入れ物だった。
小林さんが、それを持ってステファンさんの横に立つと、ステファンさんは、ちょっといつもは見かけない真剣そうな顔で、指先をその中の聖水につけて、その水を持っていたクロスのネックレスに振りかけていた。
聞こえなかったけれど、なにか口元は動いていた。
それを直美と緊張して見つめていた。
いきなり神聖ってな感じでとまどっていた。
「ほな、していいよって・・直美さん」
ステファンさんが、聖水が少しかかっクロスのネックレスを直美に差し出していた。
「はぃ」
返事をして頭を下げながら直美はそれを受け取って、また自分の首に戻していた。
「こちらを」
林さんが小さな白いレースの布を直美に差し出していた。直美がそれを受け取って、こっちを見たから、俺はあわててその布を彼女の頭の上に載せていた。直美はすぐにわかったらしく、小さく笑顔を返していた。
俺の隣には、ちょっと緊張して顔でクロスのネックレスを首からさげて頭に小さな白い布を載せた直美だった。
それを確認すると、ステファンさんが1歩直美に近づいてきて、また同じように指先を聖水につけて、直美の首にさがったクロスに小さくそれを振りかけ、それから彼女の額にもだった。
あわてて直美が両手を胸の前で組んでいた。
聖水で少し光ったクロスと静かなたたずまいの直美を見ていた。
「アーメン」
ステファンさんの声が響き、それに二人で続いていた。
静かな時間が動いていくようだった。

「こんなんでよろしいか・・」
短い静寂のあとで、いつものステファンさんだった。
「ありがとうございます。うれしいです」
直美がうれしそうな表情を明るく見せていた。
「はぃ 神のご加護と、神と共に・・・」
「はぃ」
ステファンさんの声と直美の声が聖堂内に凛として響いていた。

作品名:夏風吹いて秋風の晴れ 作家名:森脇劉生